屋島の追憶、墓参り


今からさかのぼること15年前、2002年の10月、yuiさんと個展会場を探して「四国村」へ向かった。屋島の岩峰を望むその坂道で、そこから見る屋島の姿に強烈なデジャビューを感じたのである(こんなとき決まって、頭のなかに雅楽の笙の音が流れる)。

「絵画とクラフト」「紙芝居と音楽」「蔵」。旅と森の活動とアートを融合させた新しい展開・・・間伐技術書のタイムリーな出版とともにそんな流れができれば。yuiさんらと始めた「紙芝居&個展プロジェクト」・・・その準備のときだった。

今日は、その屋島を訪れた。

何度も何度も訪れている屋島だが、つい最近私は重大な欠落に気づいたのだ。屋島寺にある本尊「十一面千手観音坐像」(榧一木造、平安時代作、国重文)をまだ見ていないのである。本堂に祀られているのは前仏の千手観音であり、本物のご本尊は隣の「宝物館」にいらっしゃるのだ。それを見なければ。

山頂の駐車場にはけっこうな車が止まっている。県外ナンバーが多かった。屋島の有料道路はけっこう高い。「上にあがるだけで600円もとられた」とつぶやいている家族連れがいる。

ここは源平合戦の地でも有名であり、駐車場から寺へのアプローチには合戦絵巻がプリントされた立て看板があり、義経や那須与一、佐藤継信など主要登場人物の説明などが書かれている。

yuiさんと遍路で訪れた屋島寺。風もなく暖かい。桜はまだだが、来てよかったと思った。ところが隣の宝物館の案内所が閉じられている。「?」博物館や美術館の休館といえば、たいがい月曜日のはずだが・・・。納経所で訊いてみると「宝物館は土・日・祝のみ開館です」と言われた。がっくり。

せっかくなので展望を楽しみながら、ぐるりと一周歩いてから帰る。

2002年、この年のyuiさんは広島から伊勢神宮宮域林、そして群馬の集いへの参加があり、鋸谷式間伐とその周辺への理解が怒濤のように・・・すなわち日本の林業問題の先端で最も重要な情報が・・・流れ込んでいった。香川での活動の中でもがき、出口が見当たらなかったところへ、思いもよらない方向から光が差したのだ。

一方、私が気になっていたのは彼女のクラフト創作への情熱である。森林ボランティアの周辺で止まっているのが惜しまれる。そこで私の絵とのコラボレーションを持ちかけてみたのだが、「やる」と言った彼女が本当にどの程度やれそうなのか? 高松で話を聞き、もう少し昔の作品などを見せてもらって、間合いを測ろうと思った。そんな目的もある旅だった。

その晩、高松でカラオケの店を探しておくように頼んでおいた。合唱部に在籍していたこともあるという彼女の声はなかなかのもで、これなら練習次第で紙芝居のパートナーとしてもやっていけるのではないかと思った。

2000年に完成した紙芝居『むささびタマリン森のおはなし』は、これまで一人で演じたり友人の女性と組んだり、かなりの数をこなしてきたが、今後は広く浅くではなく、もう少し深みのある完成度の高い演技をやれないかな、という思いが募っていた。

初めは森林の仲間や人や子どもたちに演じていたのだけれど、今後はたとえばライブハウスなどで、山に関心のない人にも林業と環境のことを知ってもらいたい。とすれば演技や歌、そして動作や間のとりかたも慎重に計算しなければならない。人形劇団に関わり様々な芝居を観てきた私には、紙芝居とてやりかたによっては十分芸術性を発揮して、人を感動させることができるという自信があった。

その頃、ここが源平の古戦場であることは、まったく知らなかった。八栗を挟んだ湾が檀ノ浦で、ここで『平家物語』に記される、扇の的を射抜く那須与一の話などがあることも(ちなみに高松市のマンホールのデザインはこの逸話なのだ)。

矢印が、その那須与一が活躍した場所である。現在の屋島は周辺が埋め立て地となって古戦場の位置が解りにくい。

それでも今では何カ所か史跡を見ている。屋島を周遊したり、庵治港などに釣りに行くときよく通る道すがらにあるからだ。

屋島を下りてyuiさんのお墓に向かった。途中、義経が松に鞍をかけ休息したという「義経鞍掛松」の近くを通っていく。お彼岸に挿した百合の花は開花していたが、まだつぼみが一つ残っていた。

翌11月、yuiさんはどんぐりネットワーク副代表として岡山で山陽新聞のシンポジウムに出る。私は個展会場候補の「四国村/石蔵ギャラリー」と、予約しておいた「イサム・ノグチ庭園美術館」を見てから岡山に渡った。地図で調べてみると、イサムの庭園美術館は那須与一・扇の的のすぐ近くだ。スライドマントラはこんな所で作られていたのだ。

そんなたくさんの追憶が去来する墓参りになった。


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