前にも書いたが、ドアや引き戸など建具は、その家の雰囲気を左右するとても重要なパーツである。
本物の木製建具を使いたいのは山々だが、カタログで無垢の建具を見ると、値段的にとても手がでない。また、雰囲気が「和」に過ぎて浮いてしまいそうだった。
というわけで、わが家では合板の中でも最もきめ細やかでおとなしい表情のシナベニアを使って、建具屋さんに作ってもらった。
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ここは3つの建具が集まっている廊下部で、寝室側から廊下をはさんで洗面所(風呂場へ続く)の引き戸を正面にとらえた写真である。右隣はトイレのドアだ。
トイレのドアは引き戸でなく開き戸である。引き戸は便利だが戸が収まるスペースが必要なのだ。
つくりはフラッシュ戸といって表面に桟組子(さんくみこ)がない最もシンプルなもの。枠をつくってシナ合板を太鼓貼りしてある。つまり中は空洞なので軽いのが特徴。
開き戸も軽いので柔らかいスギの建具枠への取り付けも安心なのだ。これが無垢板だったら、枠もタモ材のような広葉樹にしていく必要があるだろう。すると床材とのバランスがとれなくなる。
面はシナベニアとはいえ、枠や引き手は針葉樹の赤身を使っている。
シナベニアの素地の淡い色をスギ赤身の枠がくまどって、美しく締まって見える。
トイレのドア下にはアンダーカット。これは平成17年から義務付けになった「24時間換気」に対応する仕様として必要なもの(引き戸の場合はすき間があるので不要)。
開き戸の場合はドアノブが必要。ここも安っぽくすると台無しになる。できるだけ装飾を排除した金物がよい。
昔から日本の建具はシンプルで繊細・軽く簡素なものであった。そうして床の間や台の上などに四季折々の飾り物(置物や花など)を取り替えて楽しむのだ。
もちろん建具には実用に耐える強度が必要で、その枠には柾目で乾燥された良質な素材がいるし、接合部のほぞ組も非常にデリケートだ。だからここは素人は手を出せない。建具屋さんに任せたほうが良い。
和室は引き戸の内側に和紙(鳥の子紙)を貼ってもらった。引き手は木製の丸。
廊下側はシナベニアで普通の引き手と変えてある。
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スギのフローリングは柔らかく、裸足で歩ける。ごろんと横にもなれる。そこに西洋の洋間を真似た、高価な広葉樹の框建具は似合わない。また、西洋そのままのカーテンも似合わない(むしろ障子が合う)。
障子の断熱効果はなかなかのもので、暑さもかなり防いでくれる。
ただし障子枠までスギ材を使おうとするとまだまだ高価である。
この障子の枠は外材の針葉樹、スプルース。ギターのトップ板にもよく使われる材である。
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日本の山に植えられた膨大なスギの木が、厚みのある床材や、梁桁に使えるサイズとなって住宅産業に流れ始めている。スギはその乾燥をクリアするなら、湿潤な日本の暮らしに大きな役割を果たす、きわめて重要な素材である。
この家を建てて住み始めて感じたのは、われわれはスギという素材を通して、和と洋の住まいの最後の統合の時代にいるということである。西洋への憧れの時代は終わった。咀嚼も終えた。あとは地肉として再創造していくのだ。
シナベニアはそんなスギの時代を繋いでくれる重要な素材になっている。原料のシナノキが日本特産種で多くは北海道で製造されているというのも何か面白い(ただし類似原木が中国やロシアから輸入されている)。
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シナノキからは繊維も採れ、シナというのは「結ぶ、しばる、くくる」というアイヌ語から来たもの。「信濃」はもともと「科野(しなの)」と書かれ「科(しな)」はシナノキをさす。「科野」は「シナノキが生えている野」の意、だそうだ。
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