例の美しい格子入り建具が動きにくくなってしまった。この家を借りたときからちょっと動きは重かったのだが、建具がきしむほど引っかかるようになってしまったのだ。2年の閉室状態を経て、私たちが住み始めるとともに空気が動いて部屋が乾き、さらに囲炉裏で燻して乾いてきたために、木が動きだしたのだろうか。
前回の工場の引き戸の直しはユルユルだから敷居をかさ上げしたのだが、今回はキツキツなので鴨居を削らねばならない。それにはノミで削ることもできるけれど、とんでもなく手間がかかってしまう。といわけで、専用の鉋を使うことにした。
右が「脇取り鉋(わきとりかんな)」、左が「底取り鉋(そことりかんな)」である。底取り鉋は天神様の骨董市で800円でゲットしておいたものだ。もちろん刃はいったん外して研ぎなおした。
まずは脇取り鉋で溝の縦の部分を削って、当たっている部分を削って溝の幅を広げていく。
次に底取り鉋で溝を深くする。
上を向いて削るのはなかなか骨が折れる。汗が出てくる。
鴨居の凸部も削る必要がある。平鉋では削りにくいものだ。底取り鉋を使って、左右の手の人差し指を、下の写真のようにガイドに宛てがうと削りやすい。
敷居のレールを外して敷居そのものも平鉋で削る。少しねじれが出ていて、はめ込む側が高くなっていたからだ。飴色に艶が出た敷居も、一皮削れば真新しく瑞々しい木の色が顔を出す。
さて、その前にキツキツの戸をどうやって外したのか? というと、先に戸を動かしながらレールの釘を小バールで抜き(敷居に傷がつかないように厚紙などを当てる)、戸車にレールを噛ませたままズリ下ろして外したのだ。この場合、レールは全部外す必要はない。レールは金属だがしならせておくことができる。小窓などの場合はジャッキアップも有効だ。パンク修理に使う車のジャッキを利用して窓枠を開くのである(木を宛てがって局部的に窪ませないこと)。
溝だけの削りでは大変な場合は、戸の上部のでっぱりも削る。
ようやくスルスルと動くようになった。レールの釘を打ち直し、戸をはめ込んでみる。
この戸の古さと削り立ての敷居の新旧の対比をごらんあれ。
そうそう、和室の境にある障子も、借りたときから動かなかった。これは敷居が浮き上がってしまったからで、処置としては根太のある部分を見計らって、長いビスを打ち込んで止めてしまえばいいのだ。ビスの頭が飛び出ないように、あらかじめ頭の分だけ穴を広げておく。これは電動ドライバーのビットを開店させながらグリグリと押し付けてへこませれば簡単。
さて、きょうび若い人たちに「和テイスト」が受けていて、「古い木造民家を安く借りて住んでステキ・・♪」などという文脈があるようだが、彼らは障子やふすまやガラス戸など、いわゆる無垢の木の敷居と鴨居に挟まれた「引き戸」の不具合をどう克服しているのだろうか? それを廉価で直してくれる大工さんは近所に存在するのだろうか?
いないだろうな。
いま腕の立つ少数の大工さんは、金持ちの数寄(すきや)を造る。フツーの大工さんは合板とアルミサッシュの世界だ。こんな鉋、持っていないよ。
いや、本当は居るのだが、そのような職人と触れ合う町場のコミュニケーションが現代日本では失われてしまったのだ。大工の日当1万5千円とか言われたら、若い人の稼ぎじゃとても払えないものな。
桐生の町は、直せばまだまだ使える魅力的なB級古民家がたくさんある。壊さずいい方向で再生して、若い人たちや団塊のリタイア組の人たちが、楽しく新しいコミュニティをつくれたらいいな。
囲炉裏を挿入したりしてさ。