このところバロンに刺身系のエサを与えているものだから、毛並みがぴかぴかしてきた。EPA(エイコタペンタエン酸)/オメガ3は、飼い主様より豊富に摂っているにちがいない(笑)。
油の害のことがちょっと気になって、最新データの書籍やネット記事を読んでいる。食用油の分類と食べ分けについては、かなり早い時期に丸元淑生さんが警鐘を鳴らしていたが、世の中の食は改善されないばかりか相変わらず悪い方向に加速しているようだ。
昔は動物の脂は害で、植物系のサラダ油が身体に良い・・・なんて言ってましたね。その前はマーガリン信仰みたいのがあって、僕らも子供の頃は白パンに銀紙に包まれたキューブ状のマーガリンを給食で毎日のように食わされてた。
今思えばひどい話だが、さいわい僕は茨城の水戸で育ったので、その害を相殺するような目刺し(イワシの生干し)とか焼き鮭、納豆なんてのを毎日のように食べていたよ。また当時の地方都市にはジャンクフードが今のように溢れていなかった。いつのまにか、昆虫採集に通っていた雑木林が伐られ、団地が出現し、街道が整備されてコンビニやファストフード店やファミレスがド田舎に建ち始めたときには驚いたものだ。
植物油から来る「トランス脂肪酸」過剰摂取の危険性
今では、この植物油がくせものだということがわかってきた。たとえば「トランス脂肪酸」をググってみれば、日本の現代の食がいかに危ういものであるかわかる。トランス脂肪酸はマーガリンやショートニングをはじめ、ごく普通のサラダ油にも含まれている。これらはファストフードでは大量に使われており、たとえば外で揚げ物などを食べれば間違いなく摂取している。スナック菓子もしかり。ベーカリーで売っているパンもそうである。アイスクリーム(とくにラクトアイス)やケーキ類にも大量に含まれている。
油について何も問題意識を持たずに漫然と食生活を続けていたら、つまり朝にマーガリンを塗ったパンを食べ、昼にポテトフライ、カップ麺を食べ、3時にビスケットやチョコなどのお菓子を、そして夕に揚げ物とマヨネーズや市販のサラダドレッシングをかけた生野菜を食べていたら、とんでもない量のトランス脂肪酸を摂っていることになる。
WHO(世界保健機関)ではトランス脂肪酸を一日の総エネルギー摂取量の1%以下にするように推奨しているんだけど、日本ではまだそんな警鐘はなく、一般のマスコミにもこの話題はほとんど出てこない。なぜか? それらを売る側が、巨大なスポンサーだからだ。
細胞膜と脳は脂肪でできている
トランス脂肪酸を過剰摂取すると・・・動脈硬化、心臓疾患や脳血管障害、アトピー性皮膚炎や鼻炎、気管支ぜんそくなどのアレルギー疾患、肥満や高血圧、糖尿病などの強い要因になる。先進国では既に含有量表示が義務付けられており(韓国は2007年、中国は2013年に含有量の表示を義務化)、アメリカでは「プラスチック食品」「狂った脂肪」とまで呼ばれていて、知的階級はかなり早い時期からこれを制限している(その反面、貧困層・一般人に超肥満体がものすごく多い)。
私たちの身体は約60兆の細胞からできている。その細胞膜は脂肪酸でできているが、その一部にトランス脂肪酸が使われてしまうと、栄養物質と老廃物の出し入れができなくなる。また脳の成分の60%は油でできているので、脂肪酸は脳においてもきわめて重要な物質なのだ。
最近の情報では、大量生産されるサラダ油は精製する過程でヒドロキシノネナールという毒物が発生し、さらに加熱調理の過程でこの毒物が増加するという研究がある。この毒物は脳の神経細胞のみならず身体全体の細胞にダメージを与える。これがアルツハイマーの原因ではないかという説もある。
加熱がもたらす害とその対策
植物油は昔ながらの方法でじっくり時間をかけて絞れば身体にいい油だが、それは生ものでありほんらい加熱に弱いものだ。ところが大量生産される油は石油系の溶剤を使い高温で一気に加熱する。そこですでに毒素が生じているのだが、それを加熱調理に使えば(天ぷらやフライ物などはそれを何度も繰り返すのだが・・・)さらに毒物が増える。
解決策はそんな油を極力とらないようにすることだが、前述のように油は人体にとって必須の物質なので、摂るときは健康的な油を選ぶことである。また、健康的な油であっても、加熱に弱いものもあるので使い分けが必要だ。
身体に必要な油を「必須脂肪酸」というが、問題は必須脂肪酸の摂取率で、オメガ6脂肪酸:オメガ3脂肪酸の摂取比率は、油の研究をしている専門家は1:1を推奨しているが、現代人はオメガ6(主にリノール酸)をかなり多く摂り過ぎているのだ。
たとえばいま流行の「糖質ダイエット」は、高リノール酸食品を過剰に摂取してしまう可能性がきわめて高い。カロリーを制限しても貧栄養ではダメ、そこまでは分かるが、その先に油の間違いがある。つまり、油に関しては舌(味覚)だけでは防ぎ用がなく、知識(勉強)が必要なのである。
和食の原点はオメガ3
結論をいうとオメガ3(アルファリノレン酸、DHA、EPA)を積極的に摂るのが鍵になる。オイルでいうとエゴマ油や亜麻仁油(これらは加熱は厳禁である)。そしてイワシやサバなどの青魚である(サケ、アジ、サバ、サンマ、タイ、ブリ、カツオなどもDHAが豊富だ)。
意外に知られていないのが豆類である。大豆にはオメガ3が全体の1.8%含まれており、とくに寒い地方で取れる豆に多く含まれる。たとえば小豆、大正金時、白花豆、キドニービーンズなどである。ナッツ類ではクルミやクリにも多い。緑色野菜や海藻にも含まれている。
丸元淑生氏は1992年の著書『生命の鎖』の中で、オメガ6とオメガ3の理想比は1:1あたりにある、とすでに書かれている。植物油を使う前の日本の伝統食の中では、それがほぼ理想的に守られていたであろう、とも(『生命の鎖』はその後1999年に改題『何を食べるべきか』で文庫化され、新たに章を設けトランス脂肪酸の害を追記している)。
ただしオメガ3はオメガ6に比べて何倍も変化しやすく、肉類に含まれる不飽和脂肪酸に比べると桁違いに変化しやすい。とくに魚に含まれている脂肪は化学的にもっとも壊れやすい脂肪なのだが、それを最良かつ有効に取り入れる方法が「刺身」だったのである。
ただ魚を食べてきたのではなくて、魚の価値を最大限に生かす食べ方をしてきたところに日本の伝統食の特徴があったのだ。象徴的に言えば、この食事はコメ、大豆、青菜、大根、果物、いわしで組み立てられていたとしてよいだろうが、いわしを刺身で二〜三尾も食べればオメガ3は十分な量とれたことになる。そして、オメガ6とオメガ3の比率は理想比になり、大豆だけでなく魚のタンパク質の必須アミノ酸組成もコメの必須アミノ酸組成の欠点を補い、全体でタンパク正味利用率を高めあう食事になっていたと思われる。つまり、ロスがないために少ない量で十分タンパク質がとれる食事だったのだ。貧乏人でも生き延びれたのはそのせいである。
また魚自体も多量に食べる必要がなかった。刺身の場合は魚の栄養素が変化していないので、まったくロスがなく、少量で十分な栄養がとれるからだ。それに、ごくわずかの量の醤油、または味噌以外、調味料が何も加わらないために、食欲が正常に機能して刺身を食べ過ぎることはできない。その点でもロスがなく、資源を浪費しない食事でもあったのだ。(『丸元淑生『何を食べるべきか』第4章 日本の食事が注目される理由)
この辺のくだりは何度読んでも感動的である。世間では和食が世界遺産なんて騒いでいるけど、どこか勘違いしているんじゃないか? それに、魚が枯渇・汚染されるような環境を作り出しているくせによくいうよな。
加熱調理に向く油
さて、では加熱調理には何を使ったらよいか? バターやラードは高温でも変化しにくいが、これらは常温で個体の油、飽和脂肪酸なので控えめに使いたい。現在推奨されるのはオリーブ油、コメ油、ゴマ油である。
簡単な炒め物にはEXV(エキストラ・バージン)オリーブ油、揚げ物にはゴマ油(焙煎していない白太油)だが、EXVオリーブ油の廉価版はサラダ油と同じく身体に悪い成分が入っている可能性が高い。
コメ油は米ぬかから採られた油で、抗酸化物質が多く、揚げ物もからっとできるそうだ(私はまだ使ったことがないけど)。いずれも「圧搾一番搾り」のものは高価だが(ゴマ油だけは例外か)・・・。
隠れ油のパーム油は
最後に、カップ麺にはパーム油が使われており、それはトランス脂肪酸に勝るとも劣らない危険な油といわれている。パーム油はアブラヤシを原料とした半固形の油で、かつては石けんの原料であった。
日本での消費量はキャノーラ(なたね)油に次いで2番目で、ファストフードや惣菜の揚げ油、パンやドーナツ、ポテトフライ、ケーキ、クッキー、カップ麺などに使われている。いわば「隠れ油」というやつだが、これが大腸がんや糖尿病の発症に深く結びついているという。
加えて、このパーム油を製造するために、マレーシアやインドネシアなど東南アジアの熱帯雨林が伐採されている。原生林を伐ってアブラヤシのプランテーションに替わっているのだ。
やっぱり自然は大事にしなきゃいけないよな。地球環境も、身体の中も・・・。