人工林と水源


水源からやってくる水の量が少なく、臨時の管をつかって沢の本流から枡へ水を引いていた。しかし、ついに本源が「ポタポタ」程度になり、いよいよ危惧を感じてイタルさんに進言。いっしょに300mほど上にある水源を見に行ってみると、枡に土砂がかなりたまっており、肝心の湧出場所が枯れているのだった。それでも取水口付近ではなんとか水が集まっている。泥や砂利を除ければ前のぎりぎりの水量は確保できた。というわけで、枡からアトリエに落ちてくるオーバーフローの水は、いまキラキラと透明な水の輝きを見せている。

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このH集落は水が豊かで美味しいと、古い住人は口を揃えて言うのだが、最近異変が起きているようだ。先日アトリエを訪れたKさんの実家の水源も、昨年は夏に枯れたときがあったという。「こんなことはいままでなかった」僕らの水源の湧出場所の石を除けながら、イタルさんも同じようにつぶやいた。

ここ鬼石町の人工林率は8割。周囲のスギ・ヒノキ林は拡大造林時に植えられたもので、過疎にともない畑を終わらせるとき造林された場所も多い。山林を調査していると、林内に立派な石垣が現れて驚かされることがしばしばある。このような場所は、むかし伐採跡に焼き畑をやり、蕎麦を収穫していたという。斜面の畑は日当たりがよく、いい蕎麦ができたという。

木を植えて数十年が経ったいま、山の手入れをする人はほとんどいない。H集落の住人のほとんどは70才以上の老人である。畑の世話と、敷地の草刈りで手一杯であるようだ。水源の場所の、道をはさんで下側に先日チェーンソーの音を響かせていた間伐跡がみられた。森林組合の仕事だと思うが、ヒノキの荒廃林に本数率で2~3割の間伐。しかも切り捨てたヒノキをきれいに玉伐りして横に並べている。一見きれいな仕事だが、この森は3年で元に戻ってしまい、おそらく下草は生えてこない。

このような荒廃林では、本数で5割以上伐らないと林床はまず回復しないのだ。間伐されると残されたヒノキはすぐに横に枝を張ってしまい、林床への光を遮断するから。「ヒノキは多く間伐してもなかなか草が生えてこないよ」という人がいるが、それは嘘である。伐り方が足りないだけなのだ。日本の山間部では光さえ入れてやれば必ず草や雑木が生えてくるものである。

水源のある場所はこの地区にしてはめずらしいやや大径のスギ林で、若干の雑木も混入している。しかし、林床に厚く堆積したスギの葉は膨大なもので、表土は貧栄養状態と思われる。それでも荒廃ヒノキ林のように土が露出していないだけましだ。かつて、スギの伐採後には葉まで搬出し、藤岡の瓦工場へ売りに出していたというが、スギの葉は油分が多くいい焚き付けになる。実際、煮炊きに使ってみて実感する。

今朝はそのスギの枯れ葉をアトリエの庭先で拾った。すぐに大きな段ボール箱いっぱいになった。強度間伐をすると「3年ほどで枯れた沢に水が戻った」という話はよく聞く。全国の山をまわって間伐の調査をしているとき、何度かそんな話を耳にしたものである。また、中層に広葉樹が発達した人工林は水害に強い山になる。

目先のことばかりに囚われ、多くの人々が混乱したまま、人工林をもてあそんでいる。表土は荒廃・流出し、水源は枯れ、放置された森は雪で折れ始め、肝心の森のプロたちは間違った施業でムダな汗を流しオイルを浪費している。煌々と明りをつけた都市が隆盛する一方で、無尽蔵にある木質燃料には誰も見向きもしない。

薪拾いという労働や、団扇であおいで火力の調節をしたり煙りにいぶされたりという面倒から開放されて、ようやくヒマができた時代の子供たちは、コンピュータゲームなどという高いオモチャで精神も肉体も荒廃させているのだ。「焚火(薪火の扱い)の加減ができないやつは何をやってもダメだ。焚火が基本だ」炭焼の大家、杉浦銀次さんの言葉をいま思い出す。

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