囲炉裏考(その2)


マッキーをしのぐ感動

囲炉裏を使い始めて一週間が過ぎた。僕はキャンプが好きで、長年「焚き火」とつきあってきた。この感覚を実生活に取り入れようと、前の家では庭先で簡易バーベキュをしたり火鉢を使ったりもした。アトリエに来てからは、廃品のカマドを使って煮炊きや暖をとる実験を繰り返し、もちろん火鉢や石を組んだ炉での焚き火もやった。マッキー君の感動も大きかった。しかし、この囲炉裏はそれをしのぐ感動と驚きを与えてくれた。

こんなすばらしい装置がなぜ廃れてしまったのだろうか? この集落でも囲炉裏を実際に使っている家はまったくない。囲炉裏の上に蓋をして畳をしいたり、炉をそのままに上に薪ストーブを置いたりしている。全国どこの山村を見渡してもおそらくそんなところだろう。よしんばアイ・ターン組や別荘感覚で山村に家を持ついわゆるアウトドア・DIY派が囲炉裏を復活させたところで、実際に薪の炎をたてて使っている家はほとんどなく、煙を嫌って「炭」を使っているのである。これでは囲炉裏ではなく火鉢である。

囲炉裏の本質は炎

しかし前にも書いた通り、囲炉裏の本質はまちがいなくこの「炎」にあると思う。乾いた薪を使い、その薪を燃えるたびに少しづつ移動させ、小さな炎を上手に立て続ければ、煙の発生は最小限におさえることができる。囲炉裏の火は暖かい。何ものにも遮断されない炎の暖かさを、囲炉裏に集うすべての人が等しく楽しむことができる点もすばらしい。

囲炉裏で薪を使うときは、炎のポイントを中心に放射状に薪を置き、先端が燃えて小さくなるたびに前に押してやる。薪は常に「小口」から燃えることで、中の不純物や水蒸気を炎の中に放出し、煙を最小限におさえながら爆ぜることもない。またこの方法は、薪を最も節約しながら長時間燃やせる方法でもある。途中で炎が消え、煙が多く出るようになったら、「火吹き竹」で中心を吹いて再び炎を立てるのである。

炭を製造しながら燃え続ける

ところで薪の先端は燃えながら常に「炭」を製造している。これを途中から火箸でポキリと折り、「火消し壷」に放り込んで蓋をしておけば、保存用の炭もつくれるのである。「火消し壷」というのは便利なもので、アトリエでは床下に放置してあったアルミ製のものを復活させ使っている。最初、この壷は、中に前の「消し炭」が残っていた場合、そこに新たな熾き炭を入れると、蓋をしたとしても、前の炭に引火してある程度燃えてしまうのでは? と思っていた。ところが蓋をすればすぐに消えるので、壷が炭でいっぱいになるまでどんどん炭を保存できるのだ。これを知ってからはいちいち水で消火する必要がなくなった。

囲炉裏は煙い。そしてたしかに汚れる。しかし日本には「風呂」というこれまたすばらしい装置がある。煙さはダクトをつければ多少抜くことができるが、もともとすき間だらけの古民家なので、虫避けにもちょうどいいのだ。家の中に炉があると「家が乾く」のである。これは湿潤な気候の日本において、自然素材の住まいに暮らすとき非常に重要なポイントである。むくの木の家を建てても、壁に断熱材を入れると「結露」に悩まされることがある。この家ではその心配はまったくない。

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