東京都が花粉症対策として広範囲のスギ・ヒノキ人工林を皆伐し、花粉飛びの少ない品種に植え変えるという政策を打ち出した。その新聞記事(『読売新聞』06.4.4)を読んで衝撃を受けた。まさかここまでやるとは・・・。
今の荒廃線香林を皆伐するのは、環境的に最も危険なことである。これだけ下層植生の少ない山を大面積丸裸にするという経験は過去に例がない。スギ・ヒノキの根は切り株から萠芽しないので根が腐ると空隙ができて斜面崩壊をおこしやすい。すぐに植林したとしても後継樹が治山効果を発揮するまでは何年もかかる。
「あんなツマヨウジみたいな木を皆伐してどうするんだろうね・・・」線香林の皆伐現場をみるとこんな言葉がついて出る。製材してもせいぜい柱が1本とれるだけ。材積の半分は産業廃棄物として燃やされる。3~40年生のスギ・ヒノキはまだ若木であって白い辺材の部分が体積の半分近くもある。家造りの見地からすれば劣性素材である。搬出・製材コストもかかる。皆伐は今後の植栽・育林手間を考えてもムダだらけである。
東京都は「多摩の森林再生事業」と称して4年前から間伐事業も始めた。しかし混交林に誘導するには従来の間伐率では低すぎる。本数率で間伐を考えるとき、森の込み具合で仕上がりは変化してしまう。荒廃林の間伐は「材積率」で勘案し、密度管理竿で残す木の胸高直径に対する本数を出さないと強度間伐にはならない。都は初期の事業場所の追試をぜひ行ない、修正していくべきだ。そうすれば、伐り置き材の玉切り枝払い・桟積みもいらない。環境的にはそのまま放置したほうがずっといい。
ところで、この二つの事業の合計で、都は年間「約8億円」の金を森林施業に支出する計算になる。強度間伐の手法を学んだ精鋭チームをつくり効率よく間伐すれば、この予算で年間数千ヘクタールの森林整備がかなうことになる(10年は据え置きできる)。
いい森は誰が見てもいい。爽やかで気持ちがいい。針広混交林の大樹の森は神々しいほど迫力がある。喜びをもって作業ができればこんないいことはない。それにしても、西多摩の森林ボランティア、NPOの人たちはいったい何をやっているのだろうか? そして管内に改革者の出現を望む。
追記:急斜面での荒廃線香林は「巻き枯らし」を併用した強度間伐を施し、中でも太めの木を温存しながら、広葉樹を呼び込んで混交林(スギ・ヒノキを上層木とする)に移行させるのが最も安全かつ経済的にも良い方法である。
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