四国霊場 第37「岩本寺」の宿坊は田辺さんのお姉さんが仕切っておられるのであった。そのお姉さんと、朝食後に喫茶室でいろいろと話しをした。昨日の膳もお姉さんの計らいのようだった。僕は広間に立てかけてあった絵のことを訊いた。それはかなり大きな日本画で、青地に金で銀河のようなのたくった曲線がアクションペインティングのように置かれ、そこにグリッドを切って、部分に絵はがきのような風景画が描かれている。よく見るとそれは同じ地に描かれたもので、沈下橋の風景だった。ということは、この銀河は四万十川の暗喩なのだ。
この絵はお姉さんの発案で知り合いの日本画家に描いてもらったそうで、その画家さんもライフワークとして数年の歳月をかけて取り組んだという。しかも観音開きに断った2枚のスギ板に描いた板絵であるという。それは、これから建立するお堂の天井画になるものなのだそうだ。時代の流れとともにやがて消えてしまうであろう沈下橋は、自然に身をゆだね自然と供に生きる構造物である。
「その気持ちを何かに残したいと思いまして。私が亡くなっても、絵は残りますから」
とお姉さんは言った。僕は四国88カ所のことを、そして空海のことを想った。
「これからの時代に、森にかかわる弟の仕事はとても大切になってくると思います。大内さんが書かれると影響は大きいでしょう。とにかくよろしくお願いいたします」
田辺さんは議会があるので僕らは独自に取材をする。前日の一番最初の取材地へもう一度行ってみた。そして林道の様々な位置をふたたび写真を撮り、自分たちでいろいろ考えてみた。雨が落ちてきたが、傘をさしながら歩いていると一頭のシカに出会った。
その足で四万十川の流れに沿って下流の中村まで行き、「トンボ王国」を見る。さすがに雄大な流れだった。
そして足摺岬へ。これでようやく、僕の中で「四国全体を回った」という感じがしてきた。夕刻、窪川へ戻り、田辺さんの会議が終わるのを待つが、今日中に徳島まで行かねばならず、出発してから電話での打ち合わせとなる。
高速に乗って徳島の友人宅へ。IさんはYKを通じて知り合った大規模所有の林家の方である。ちょうどご自身の山を森林組合が林道を開削している最中で、その造り方を見て感想を聞かせてほしいとのことだった。林業家の友人Tご夫妻ほか多数の方々が遊びに来て、音楽を交え楽しい夜を過ごした。