連日、小麦の脱穀に追われる。この季節、貴重な晴れ間にはすかさず麦粒を干さねばならない。そうしないとうまく粉に挽けないし、カビが生えたりして台無しになってしまう。脱穀できた分を干しつつ、残りの束の脱穀を急ぐ。束は室内の縁側(廊下)に新聞紙を敷き、角材を渡してその上に保管してある。天気がいい日を狙って刈り取りしたのだが、一晩で新聞紙が濡れている。
しかし手製の千歯こきでの脱穀では、なかなかはかどらない。刈り取り後二日目以降、穂の付け根からぶちっと取れてしまう株が多くなってきて、結局、手でしごいて粒を出したりしている。
いま脱穀機の主流はもちろんコンバインというやつで、これはエンジンで刈り取りと同時に脱穀までできてしまう。その前は足踏み式、これは木と金属でできたドラムに針金の突起がついている。最も原始的なのが千歯こき型だが、もう一つ「くるり棒」と呼ばれるものがある。
要するに棒で叩いて麦粒を離れさせるのだが、その棒が竿先でくるりと回るようになっている。カンフーの武具「ヌンチャク」のような原理で叩くわけだ。群馬の方々の郷土資料館を回ると、この「くるり棒」がよく展示してある。お隣のイタルさんもこれでやっていた時代があるという。取手のほうはやや長くなっており竹が使われ、打ち棒はやや重い木が使われる。これだと立ち位置で叩けるから便利で仕事が早いのだ。
では、西洋ではどんな方法をとっていたのだろうか? 麦といえばヨーロッパのほうが太古の昔より長く食べられてきた主食穀類。本棚から18世紀フランスのディドロ
『百科全書』(『フランス百科全書 図録編』 全4冊 索引1巻 小学館 1979)を取り出し、イラストを調べてみる。するとやっぱりくるり棒だった。そして箕には取手がついていた。
たしかに刈り取ってしばらく乾燥すると、叩くだけでバラバラと粒がこぼれる。しかし、くるり棒でやるには広いスペースが要る。そこで布団叩きに使っているY字棒で叩くと、これでもなんとかなる。未成熟に近いのものはさすがに取れにくいが、カビさせるより脱穀を急がねばならないので、Y字棒で一気に脱穀を終わらせたのであった。
ネットで調べてみると、この二股自然木利用による叩き棒は「まどり」などと呼ばれ、多くの地方で脱穀に活躍していたようだ。形はYというよりもUに近い。そんな木をみつけたら来年のためにとっておこう。
脱穀の後は、実と籾殻が混ざったものから籾殻だけを取り除く作業。これをいちいち手でやっていたのでは大変だが、籾殻は実よりもうんと軽いので、この性質を利用して、空中に放り上げ風で殻を飛ばして選別する。そのために便利なのが箕(み)という道具で、昔はおもに竹製だった。穀類選別に大切な道具であったためか、箕は神聖なものとして扱われた地方もある。慣れると早いが、途中でふうふう吹かねばならないので肺活量が要る。
これが全収穫↓。これから天日乾燥にかかる。いまH集落で麦を作っているのは僕ら以外に誰もいない。しかし、このプロセスをおぼえることで自信がついた。
畑にコンニャクがにょきにょきと出て葉を広げ始める。
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