屋久島紀行20.(山口周南、本州最後のツルたち)


昨夜の温泉が釈然としなかったので、朝もう一軒入りにいく。俵山から10数キロ先にある湯本温泉の共同浴場「恩湯」である。まず建物がいい。値段が安い(140円)。驚いたのは朝も早いというのにすでに10人以上の人が湯に浸かって談笑している。

middle_1206218006

掛け流しの源泉がどぼどぼと注がれる湯舟は石で、壁には仏像がはめ込まれている。すばらしい! 信仰というものが、古き良きものを保たせているようにも感じる。

middle_1206218089

山陽道から山中に入ると一気に田舎化する山口。名も知らぬ橋を渡り・・・

middle_1206218136

秋吉台のカルストの中を通り・・・

middle_1206218184

小さな峠を越えて、やって来ましたツルの里「周南市」。本州で唯一、ツルが越冬する場所。

middle_1206218217

しかし、年々ツルの飛来数は減少し、今年は9羽しかいない。しかも、そのうち2羽は鹿児島の出水から連れてきたツルだ。周南では飛来数を増やすために様々な試みをしている。これもそのひとつ。ツルのデコイ(実物大模型)である。

middle_1206218255

監視所から双眼鏡で本物のツルを確認する。いたいた! 出水のように間近では見れない。ここのツルは警戒心が強いようだ。ちょうど北大の研究者の方が調査に来ていた。周南のナベヅルに魅せられて、7年ここに通い続け、今年から出水市役所に勤めることになったというその方に、いろいろお話をうかがった。

middle_1206218280

江戸時代、ツルたちは全国各地に飛来していた。幕府が保護していたこともあり、庶民はツルたちを大切なものとして、いい関係を結んでいた。ツルは日本の稲作と非常に関係が深い。雑食性のツルは落ち穂や田んぼの虫や小動物を食べる。稲の育つ間はシベリアに居て、収穫後に田んぼが休んでいる間、日本で越冬する。とても都合の良い関係なのだ。

明治政府になり、狩猟の禁が解かれ乱獲され、ツルは激減する。西洋化・近代化は、日本の野生動物たちにとって受難の始まりであった。しかし、周南(旧熊毛村)では県令によるツル捕獲禁止、明治後半にはツルの保護会を結成するなどして、ピーク時には350羽以上のツルが越冬するようになった(昭和15年)。飛来数はもう一つの一大越冬地である鹿児島県出水との拮抗関係もあるようだが、平成に入って65羽まで減少し、今年はついに10羽を割ってしまった。

middle_1206218355

監視所前の田んぼは広々としており、周囲は低い山に囲まれている。田んぼは減農薬を基本とし、ふゆみずたんぼも何枚かつくってあった。山はスギも植えられているが、雑木林が中心で竹も混じっている。谷地がいくつか入り込んでおり、ツルたちの環境としては申し分ないように思えた。隣接する道路の電線もツルたちのために埋設してある。

しかしいったん個体数が減ってしまうと、広い縄張りを作ってしまい、他のツルを追い返してしまったり、いろいろ難しい問題があるそうだ。

今日は北帰行が見られるのではと、午前中はマススコミ取材陣がたくさん来ていた。しかしツルたちは帰らなかった。やや視界が悪かったようだ。僕らは午後に到着したので、むしろ北帰行ぎりぎりの日にツルを見れて幸運だった。

16時をまわったとき、ツルたちが飛び始め、9羽が並んで飛ぶ光景が見られた。「北帰行の練習だろう」「明日は帰りそうだ」と、監視所の人たちがにわかにざわめく。

middle_1206218373

資料館で、子供たちのツルに対する情熱・愛着を感じた。ここはかつて「山口の仙境」といわれた場所らしいが、いま日本のどこを探してもそんな場所はない。道路が隅々まで配置され、インターネットで世界中の情報をキャッチでき、ツルたちは探査機をつけて行き来を調べられている。これからは、ツルたちが昔に戻れる環境を再創造するのが僕らの努めであろう。それができないようなら、僕たちの未来もまた相当暗いものになるのを覚悟したほうがよい。

middle_1206218401

コペンに乗り込んで周南を去ろうとすると、またツルの飛翔が見えた。空に甲高い鳴き声がこだまする。ねぐらへ帰るのだ(ここでは監視所前の田んぼからやや離れた、地元の人が手入れしている谷地をねぐらとしている)。僕らは道から田んぼへ入り込む空き地にコペンを止め、夕空に消えていくツルたちを見送った。

追記:『山口新聞』によると、翌日7羽のツルが北帰行し、鹿児島から連れてきた2羽は居残ってしまったそうだ。※昨年冬、和歌山県の日高川でナベヅル14羽が飛来(近畿で一ヶ月以上留まるのは極めて珍しい)。3/15に北帰行した。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください