大地の再生・見立て@北海道名寄の森2/羊とチョウザメ、最北の田んぼ


昼食場所に移動する。道は何度か天塩川を渡って行く。河口に広大な湿原を持つ大河川である。釣り人の間ではイトウと野生化したニジマスの釣り場として有名だ。

依頼者の仲間の工房に案内された。いかにも北海道らしい佇まい。

手彫りの看板に「祖精草堂(そせいそうどう)」とある。

草木染めの工房かしらん? と思ったら、羊毛だった。

糸を紡いで編むのではなく、圧縮してフェルト状の布で作品を作られている。子供用の室内靴や、スナフキンががぶっているような帽子がカワイイ!

主宰するのは逸見吏佳(へんみ・りか)さん。100パーセントではないが、地元の羊毛も使われている。そして、この建物にはなんと羊毛が断熱材として使われている!

カップのカバーもかわいい。夏の飲みのもは結露水を吸ってくれ、冬は断熱と保温。

手作りの美味しい食事をたくさんいただいて、次に町の事業として行われているチョウザメの養殖場建設現場へ。美深町はチョウザメ養殖で有名らしい。もちろんキャビアを採るのだが、身も淡白で美味しいという。

発電所の放水を再利用して養殖池に使い、糞などの汚水は大きな浄化槽で浄化したあと上澄みだけを川に放流する。水系的には環境に配慮したものだが、敷地は過度に緑が剥がされて、玉石混じりの土が重機で押されているだけの部分がかなりある。

予算がないので舗装はせず、放置して草地に戻すという。傍らに山積みされたクズ丸太の山を見て「あの木材はここから出たものでしょう、チップにしてここにグランドカバー、いやチップにしなくてもそのままでもいいから、ばらまいておくだけで草の生え方が違ってきますよ」とすかさず矢野さんがアドバイス。

最後に仲間の田んぼに行く。ここ美深町は日本最北の田んぼだそうだ。

スコップで掘ってみると固くなって浸透性のない層となった土壌(硬盤層)に突き当たる。グライ土壌の有機ガスが出るためイネはこの深さから下に根を伸ばせない。

基盤整備で重機が入った田んぼはこのような状態になることが多い。対策としては、田んぼの周囲ぐるりに溝を掘り、縦にも何本か溝をを入れて空気通しをしてやる(外周をより深く)。

イネの成長にはイネ本来の湿地環境を作ってやるのがよい。水の入りと出を調整して田んぼ全体に一定の対流が起きるやさしい水の流れを作ってやる。この田んぼは田渡しで水が動くので、出口の穴の手前に大きめの点穴を掘っておくとよい。

昔は一枚が小さかったから田渡しの穴(溝)は1カ所でもよかったが、大きくなった今ではうまく対流を見極めて穴の数を増やしてもよい。

矢野さんは明日からまた仙台の現場。仙台への飛行機は千歳空港まで行かないと直行便はない。というわけで、もう一度羽田へ最終便で帰る。逸見さんのご主人に車を運転してもらい、旭川の空港へ戻る。

矢野さんはさすがにお疲れのようで爆睡を始めたので、私が会話のお相手をする。私が「本を書いている」その内容を話すと、逸見さんのご主人は思い当たるフシがあったらしく「その本、知ってます! 図書館で何度も借りてました〜」などというのだった(笑)。

空港でまだ時間があったので喫茶店で1時間ほど打ち合わせ。

地域、結のシステム、学びというかたち・・・

学びと実用が同時に進行する・・・

一番大事なものを地域がみていない。住民抜きでプランニングが進む。麻酔のように陥っている・・・

地域ぐるみで、大地の再生の作業や経済活動ができるように・・・

全ての原点である元環境整備。北の大地もそこから始まる。田んぼのわきに小川が流れていたが、川底が黒ずんでまるで泥炭層地帯の特殊河川のようだった。本来なら、透明で白石が見え、胸がすくような光景であるはずだ。

天塩川流域は「釣りの宿」が成り立つほど本州からの釣り客に人気があるというが、この現実にまったく気づいていないのではないだろうか?

帰りは私が窓側の席をもらって、月光に輝く雲海を見ながらの飛行だった。宿の予約が取れていないので、大井町駅前のスーパー銭湯に泊まろうということになった。

駅前にあるとは思えないしゃれた施設で、矢野さんは風呂上がりイスに座るなり爆睡。私はフロントの冷蔵庫にハートランドを見つけて、飲みながらしばらくネット。驚いたことにリクライニングチェアがすべてIKEAのポエングで、アトリエと全く同じそれに、たちまちのうちに寝落ちしたのだった。

旭川日帰り旅、なかなか得難い経験(笑)。ともあれ、長い1日であった。


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