大地の再生・見立て@北海道名寄の森1/北の桃源郷を取り戻すには


矢野さんは三春の現場から最終電車で同じホテルに着き、早朝ホテル前に予約しておいたタクシーで羽田へ。書類袋に道具の入ったキャリーバッグ、それに衣類などが入るリュックサックと、大荷物なので移動も大変である。羽田発6:45のAIRDOになんとか間に合い、旭川へ。

空港で買ったおにぎりを機内で食べながら、雲と大気圧の話になる。起きている間は、矢野さんの話は途切れることがない。

旭川が近づくと、北海道らしい直線で区切られた道路と農地が見える。実はこの直線化された大規模な農地開発が、いま北海道の自然を疲弊させている一大原因なのだ。

依頼主のご夫妻の車で、雨の中「見立て」の現場へ向かう。大地の再生における「見立て」とは、実際に現場を検証して、目的のために今後どのような作業で改善していくか? を矢野さんがアドバイスするのである。

目的地の名寄まで約2時間。車中でも質問とレクチャーが続けられる。まず北海度の紅葉に精彩がない・・・というのが矢野さんの感想だった。この北国の紅葉は昔はこんなはずではなかった。気脈・水脈の滞りで木々が弱っているから色づきが悪くくすんでいるのだ、と。きちんと呼吸をしていると鮮明な色になる。動物の血液も同じである。

北海道は丘陵地が多く、気脈・水脈が淀みやすい地形をしている。そこに大型構造物をともなう農地開発・河川改修がどんどん作られた。とくに、先の地震で崩壊した厚真町の下流域には、全道で最も古くかつ規模の大きい苫小牧周辺の開発地区と港湾がある。

厚真町の大規模崩壊は矢野さん自らスタッフと調査に行っているが、単なる地質由来の崩壊ではなく、やはり大地の詰まりで植物の根の下にヘドロが溜まるような状態になっていたそうだ。でなければ、あのような緩やかな地形であれだけの地滑りはありえない。

九州北部豪雨の崩壊は「記録的豪雨」が、厚真町の崩壊は「巨大地震」が原因とされている。しかし、大地の再生視点で見れば、どちらも近代土木構造物による詰まりが原因なのであり人災と呼ぶべきものだ。

現場はクマザサに木々が点在する北海道らしい山林だった。そこに山荘を建て、農地としても使っていきたい。自然志向の仲間たちと共同でプランを描いているということだった。

その仲間たちも現場に集まり、矢野さんの指導に耳を傾ける。沢が隣接しているため、建物の建設にはその影響を強く受ける低い土地は避け、日当たりのいい斜面を選び、北西の季節風は立木で防げる位置がいい。

建設予定地を見聞した後、敷地周りの林道を歩いてみる。素掘りの側溝が掘ってあるが、やはり道は固く締まっており、木々の成長に痛みが見られる。

腐葉土の下の層が硬いが、グライ化(ヘドロ状)にまでは至っていないのは素掘りのせいか。そもそも北海道のような雪と氷の影響を受ける土地は、その融解の影響によって大地は詰まりにくいもなのだそうだ。

精彩を欠く、とはいえ鮮やかな紅葉も随所に現れて目を奪われる。イタヤカエデの黄葉・・・

シラカバ、ミズナラ。

エゾリスが出た。もちろんヒグマもいる。糞が落ちているのを見るという。

沢を渡るカーブのところで典型的なヤブ化状態のところが現れた。クマザサが徒長し、灌木の枝が垂れさがったり折れたりしている。そこにツル植物。対策はやはり点穴である。素掘りの側溝の中に数メートルごとに深さ30cm程度の点穴を掘る。そして側溝の上部は風が通るように草刈りをしておく。

植物のすばらしいところは、大地の再生の処方をするとたちまち息を吹き返して応えてくれることである。空気と水の循環がよみがえると、木々が再生するだけでなく、草の背丈が伸びなくなる。どこに行っても綺麗に見える、感動的な空間になる。

水切りの仕方も教わる。

水が停滞しているところを見つけて、落ち葉などを取り去って流れるようにしてやる。停滞すると泥アクがたまる。泥アクは有機ガスを発生させるので植物を疲弊させる。泥アクの解消は、大地の再生にとって極めて重要なテーマである。

ただしやり過ぎてもいけない。停滞する水を動かすとき、一気にやるととんでもない動きをして地形を削ってしまうことがある。加速度をつけないで、徐々に流れるように、意識的にS字蛇行させるような気持ちで水切りする。

また流れが過度に早い場所は、石などを置いて流れを分散し、弱める工夫をする。

この土地には二つの沢がまたがっていることがわかった。参加者の仲間の一人が「この付近に草木の生え方のバランスが良くて、この世のものとは思われないようなすばらしい場所があるんです」と言った。そのような場所は地形条件がよく、気脈・水脈が流れている場所なのであろう。

私は矢野さんに同行した屋久島の桃源郷のことを思い出した。そして、北海道の本来の自然の姿をここから取り戻してもらいたいと願った。

(続く)


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