いよいよ薪火の季節到来ですな! さて、囲炉裏暖炉だが、その直立する石壁は、ほぼ全域にわたって黒くなってきた。最初は炎の通り道だけ煤けていたのだが、3シーズン目に入ってさすがに貫禄が出てきたわけですな。だけど、これだけ全体に煤けてくるということは、やはりいくらかは煙が外漏れしているのだな。
ところが、背後の漆喰壁は全然汚れがない。もちろん天井にも煤けた感じはまったくない。
しかし、さらに驚くのは、この漆喰壁というやつ、汚れがないばかりか、施工当時にぬり終えて完成したときと同じ状態のままなのだ。ホコリの吸着がなく、塗ったときのテクスチャーをまったくそのままに保持している!
実は、漆喰は汚れやすいのではないかとびくびくしていたが、ちょっとした汚れ、たとえば泥汚れを付けてしまったときなどは、サンドペーパーでこすってやると消えてしまい、削り跡もほとんど解らない。そんなこと以外は、完成から2年半が過ぎたのに全体として純白のままなのだ。ちょっと信じられないが。
いま漆喰にして本当に良かった・・・と心底思っている。ビニールクロスの嫌な臭いもなく、清らかで清々しく、見ていて飽きない。職人さんが塗ったところはコテ跡はほとんどなくて平滑なのだが、それでも微妙なザラつきの波が感じられる。そのランダムなゆらぎを、人間の目はきちんと感知する。クロスに比べて視覚的にも穏やかで優しくて温かいのである。
ただ、残念ながら壁のベースは土ではなく石膏ボードである。そして外壁との間の断熱材は石油化学素材のウレタンフォーム(直接吹付けで発泡させるる硬質ウレタンフォーム/商品名「アクアフォーム」)である。しかし、これは現代事情ではいたしかたない。
そして、白い漆喰壁とスギとの相性が非常に良い。窓枠やドア枠、階段の板、フローリングと幅木、このスギが漆喰に実によく合う。これはやはり住んでみないと解らないものだが、スギという素材以外は考えられないくらい、漆喰にピタリと合っている。ヒノキでもダメであろう。ヒノキでは冷たくて硬過ぎる。
しかし、もし土壁にしていたら、真壁(しんかべ)構造になり、壁に沿って柱が見えてくる造りにならざるを得ない。また、天然乾燥材にこだわる設計施工チームであれば、真壁を必ず薦めてくるだろう。柱を見せることで湿気の出し入れをさせたいからである。
実は、私の家のような、大壁でホワイトキューブのスタイルは、案外珍しいのかもしれない。いや、モダンな設計家の家ならホワイトキューブはいくらでもあるだろう。しかし、本物の漆喰を全面に塗り、露出する木の部分はほとんどがスギ・・・とはしないだろう。高くついてしまうからである。
彼らは(そして彼らに頼む施主らは)本物の漆喰とスギの価値を知らないし、価値が解る設計家は天然乾燥材で真壁にしたいのである。私も、最初は天然乾燥材を絶対に使うつもりだった。が、金銭的・期日的な問題で諦めざるを得なかったのだ。
しかし、そのおかげでこの空間が完成したのである。私のこだわりと、工務店の一般的な現代工法との折衷によって、ハッとするほど美しい、これまで見たことのない空間ができてしまったのだ。
囲炉裏暖炉の存在があまりに派手すぎるので、この空間そのもののに言及する人は少ないけれど、私は住み始めて時間が経つほどに、この大壁による漆喰塗りとスギの空間はすばらしいと感じている。
とくに室内から見る窓が美しく、窓から入る光のグラデーションが美しいのである。真壁の柱の軸線は、悪く言えばこの2つをずたずたに引き裂いてしまう。もちろん真壁しか出せない美もある。しかし真壁の家は庭との共同作業が必要になってくる。庭という有機体があってこそ軸線が生きてくるのだ。
幸運だったのは家具を後付けにしたことである(漆喰とスギにこだわり過ぎて家具を買う予算がなくなったこともある)。この空間の価値に気づきながら、自ら家具をつくり慎重に置いていったのがよかった。そして、無垢のスギを多用した家具は、やはりこの部屋に違和感なく納まるのであった。
ヒノキはダメだと書いたけれど、丸太柱はヒノキである。また和室だけは真壁で、ヒノキの柱を見せている。ヒノキは神聖な空間にはよく合うのである。和室がスギだったら凡庸になっていただろう。
この家の設計にたどり着くまでは大変だった。私は東京時代に建築家との付き合いも多数あったが、yuiさんは有名建築家にこの家づくりを任せてしまうのを嫌がっていた。そして後輩の工務店に出会ったことをすごく喜んでいた。地方の誠実な工務店と、私の強引な押しとの融合によって、新しい何かが生まれることを予感していたのかもしれない。
白い漆喰壁とスギがいいとはいえ、やはり囲炉裏暖炉がこの空間を一気に引き締める存在になっているのはまちがいない。フードと煙突の黒と、コンクリートに酷似する鷲ノ山石、そして廊下から見て唐突に現われる階段のアイアン手すりの黒が、視覚的にも漆喰とスギを高める。意識的に異物を挿入することもまた、素材感を高めるために重要なのである。
Gomyoで丸太を得たことも幸運だった。そして、もし有名建築家に流れてしまっていたら、もちろん「囲炉裏暖炉」は生まれていなかったのである。