水戸の常宿が満杯で、今回は駅南のTというビジネスホテルに泊まった。この宿も安い。しかも高速ネットがつながるので調べものに重宝する。が、周囲に飲み屋がないのがネックだナ。早朝、ホテルサービスの朝食(おにぎりと漬け物と味噌汁/無料)を食べ、取材先に向かった。
今回のイラストマップの場所は筑波周辺の市町村で全5カ所。そのひとつの真壁町に向かう。ここは知られざる古民家の宝庫で、登録有形文化財の建物が100棟以上ある。古くから商業の町で、母屋だけでなく、蔵、門のすばらしいものがある。そこを縦横に歩き回り、写真を撮りまくった。
その後、再び筑波山へ。コペンのカーナビを、加波山との鞍部を越えるルートにセットした。さて時間は昼。どこで食べようか・・・と探しながら進んでいくと、「合掌造りのレストラン」という小さな看板を相方が発見した。それに導かれたどり着いたのはレストラン「ひたち野」。
水戸で少年時代を過ごしていた頃、僕はこの「ひたち野」の宣伝をラジオかなにかで聞いていたような気がする。常陸牛のレストランだった。言葉の響きが心に残っていたのだ。特別な店で、値段は高いような老舗だったのではないだろうか。
でも、合掌づくり(移築)ということで、僕と相方は財布を気にしつつも、入ることにした。広大な建物、屋根の角度はそのままだが、茅葺きではなく別の素材が施してある。駐車場も広いが、客はいないようだった。メニューを開くと値段はたしかに高い。ファミレスの倍以上である。
だが、中は圧倒的なすばらしい古材で再生されていて、テーブルはケヤキの無垢材、しかも塗装が施していないその中央には、石の炉がはめこんである。脂が飛び散って炉の周辺のケヤキ板が少し色濃く変色している。それが、普通の人は「キタナイ」と思うのだろうけれど、僕らはその雰囲気がいいと思ったし、そのままである店の方針にただならぬものを感じた。
炭火が運ばれてきて、それが炉に入るとふくよかな香りが立ちのぼってくる。それは、上質な炭の燃えるかぐわしい匂いと、その熱に炙られて炉に染み付いた脂の匂いが醸し出している。だが、お客は僕らだけだ。途中で老夫婦が入ってきたが、メニューをみて「和食はないんですね・・・」と言いつつ帰ってしまった。常陸牛の炭火焼きはすばらしく美味しかった。
ケーブルカーで鞍部に登り、自然研究路を一周してから登山路の分岐点などをチェックし、女体山に登頂し、弁慶茶屋~白蛇弁天を通って筑波山神社へ下山した。その足でつくば学園都市へ向かった。そこには日本の建築史において、きわめて重要な建物がある。磯崎新設計の「つくばセンタービル」である。
僕は、ここに友達の結婚式のために過去に2回訪れたころがある。ポストモダンの殿堂といわれ、磯崎の世界的な名声を不動のものとした建築である。だが、いま見るとそれは汚れて寂れた廃墟のような印象を受ける。つくばエクスプレスが開通し、新たなガラス建築と界隈ができ、それとの格差がいっそう寂れを助長している印象を受けた。
学園都市の中央繁華街をみて、なぜか僕は、かつてフランスのパリに旅してそこを歩いているのと同じ感覚がこみ上げてくる。「ここはパリだ!」と思ったのだ。なぜそう思ったか分析してみると、電線や電柱、自動販売機がなくて美しいからだった。区画がくっきりしていて、広場の界隈があるからだった。「回転木馬」がつくられている。セーヌ川河畔でみたそれを思い出した。
土浦に泊まることした。カーナビと携帯電話で探し決めたそのビジネスホテルは、駅に近いながら格安だった。宿に荷を下ろし、まず郊外の大型銭湯に入りに行った。そして宿に戻って駅方向に繰り出すと、なんと「色」系の店が目白押しで、ポンビキのお兄ちゃんがずら~と並んでいて、ぶったまげてしまった。ナルホド。
その視線をかわしながら、いろいろマジな店を探して、「春木屋」という居酒屋に入った。ここは当たりだった。中は満席でごった返している。庶民は知っているのだナ。安いのに旨さに全力投球なのだった。
その後は相方の押しでカラオケへ。まあライブも近いことだし勉強というかトレーニングも兼ねて。しかし、相方の歌声は本当にすばらしくて、聴衆として幸福な時間をすごしたのでした。