仕事中


イラストマップ本描きの仕事が佳境に入る。仮眠してから明け方まで、陶器製の湯たんぽを机の下に置き、腰から下を毛布にくるめて仕事に向かう。明け方、さすがに寒くなり、囲炉裏をおこして暖をとりつつ湯を沸かし、コーヒーを飲み、湯たんぽに湯を入れ替えて再び仕事机に向かう。アトリエはまだ机とかイスとか照明なんかがベストの状態ではないのでいろいろ面倒ではある。囲炉裏の煙は原画仕事には禁物(白い紙がセピア色になっちゃうから)なので、当然のことながら仕事は別の部屋でやっているのだ。

囲炉裏は仕舞に燃え薪を灰の中に埋めておくと熾き火がしばらく保たれる。囲炉裏の火を再開するときには、灰から熾き火を取り出し、細い小枝などをその上に置いて火吹き竹で吹くと簡単に炎が上がる。この、灰の中から赤い熾炭が現れるときの暖かさがなんともいえない。明け方、移植したユズの木を見にいく。葉っぱに元気がない。ちょっと心配だ。周囲にの木々に野鳥がすごく多い。朝食はカツオだし、野菜たっぷりの味噌汁。炊きたてご飯、納豆にワサビの擂りおろしと焼き海苔。納豆を食べたらやっぱり緑茶。そしてまた仕事に突入する。

今回のマップではカットの部分を鉛筆線を生かした彩色でやってみることにした。今回は建築物の絵が多いから、ペンの線だとどうしても黒く重くなりがちである。鉛筆の線は淡くも軽快で、太さも自由自在で、やりようによっては様々な表情が出せる。しかし、鉛筆線はかつて印刷業界では御法度だった。反射しやすいグレーの線描は正確な再現が難しく、ぼやけた絵になってしまうからである。しかし、パソコンのおかげで原画をフォトショップで補正することができ、鉛筆をペンの線描の濃さで表現できるようになった。

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それにしても最近のスキャナとPCの総合性能には驚かされる。昔は原画をスキャンすると、薄い線描や水彩のある種の淡い色は消し飛んでしまったものだが、今は細かい微妙なマチエールまで、息づかいまで伝わるようになっている。もともと僕の仕事は超アナログで、描画や書き文字の段階でPCはいっさい使わないのだが(昔は必用に迫られてエアブラシも使っていたものだ)、スキャンしてから色補正したり、手書き文字を合成したりということはやっている。そうすることで、手描きの良さが印刷面やデジタル画像の中でいっそう引き立たたせることができる。これはパソコンでイラストを描くタイプの人とはちがう使い方である。

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たちえば「版画」には肉筆の臭みを消して作品を昇華させる力があるが、いまパソコンのグラフィックソフトで同じことができるということなのかもしれない。「油絵では描けない真実を、クレヨンでなら表現すことができる」・・・これはフランスの画家ワトーが残した含蓄のある言葉だ。しかし、いつものことながら、完成するまで油断は禁物だ。新しいチャレンジには落とし穴の危険がつきものなのだ。慎重に、そして大胆に・・・。

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