アトリエの建物のすぐ側を流れる水路(というか幅10cmほどの溝)きわに、冬越ししたクリンソウのロゼットがぐんぐん大きくなる。ワサビもぶわ~っと大きくなってきた。湿地をイノシシに荒らされたとき株分けしてここに移植したワサビもいくつか根づいた。クリンソウは意外にも繁殖力が旺盛で、保護してやれば水路沿いにどんどん広がっていくようだ。
と、見慣れぬスミレを発見。エイザンスミレだ! なぜか、一株だけ水路きわに生えてきた。日本特産種のなかなか気品あるスミレである。これも大事にしよう。
自然保護というと「花を穫ってはいけない」とか、「木を伐ってはいけない」とかいうイメージがあるようだが、ここ神流アトリエでは「刈る」ことや「伐る」「間引く」ことで敷地の植生をコントロールし、潜在的な種の芽生えを観察している最中である。この管理をしないと、時を得た植物だけがワッとはびこってしまう。
まったく日本の自然はすばらしいもので、ごくフツウの場所では一定の草原を維持するのは難しい。放置すれば草原はやがて林になってしまうのだ。強度に間伐すれば空間には雑木が生えてくる。昆虫や鳥の移動も植物の繁茂に大きく手を貸す。この感覚が、多くの日本人には解っていない。だから、「植林美談」などにコロっと騙される。
その影で、人の暮らしの身近にあった里山や田んぼや池などに依存している野生種が、この数10年で激減しているのだ。
だれもが自然保護には賛成なのだけれど、ではどうやったら保護できるのか? どうしたら失った自然を回復できるのか? を知る人は少ない。『絶滅危惧の昆虫事典』川上洋一著(東京堂出版2006)を読むと、農業や牧畜など人の営為の変化、そして土建などの開発行為によって、いかに自然が貧弱になってしまったか、そしてこれからどうすればよいのかがよく解る。
著者の川上さんはとは以前、東京青梅『繭蔵』のグループ展でご一緒したことがある。図書館でこの本を発見して「重要な本が出たな・・・」とほくそ笑んでしまった。1次産業に関わる人、土建業に関わる人、それらに関わるお役人、そして環境NPOの方々などが、ぜひとも読まなければならない本だ。