鋸谷式間伐ダイジェスト版


ジョイフル本田で改装材料などを買い物して帰還。

帰ってから、鋸谷式間伐のダイジェスト版をホームページにアップした(こちらのサイドメニューから「Web版 新・間伐マニュアル」をクリック)。

一般市民の環境問題の高まりから、ようやく森に目が向けられてきた。民主党政権になったことで、緑のダム政策が押し進められるとき、まだ知識ない人たちが舵取りを誤らないように、とっかかりやヒントを残しておこうと思うのだ。

ストレートに人工林=悪というような、短絡思考に落ち入られても困る。また、崩れない作業道を得た林業がすべてバラ色のように明るいと言われても困る。

奥山を伐採して必要以上に人工林を造ってしまった悪はある。それは自然林に改変していこう。しかし一方で、私が鋸谷さんを茨城の山(私の昆虫採集の思い出の山/原生的な森が伐られて人工林に)に案内したときの、鋸谷さんの言葉が忘れることができない。当時の日記から再録しよう。

北茨城市から里美村、大子町にかけて、茨城県北は林業の盛んな地域である。きっと鋸谷さんも興味を示されるのではないかと思い、ついでに私の創作活動のルーツでもある花園山周辺を見てもらおうと考えた。

まずは「花園神社」。ここは海岸線の国道から山間に1時間ほど走った山中にある。森厳な中に赤い清楚な社が建っている。社寺林として樹齢300年のスギ林があり、境内には天然記念物のコウヤマキの大樹。樹齢500年の三本杉がある。

超大径木の社寺林は、残念ながら下層の広葉樹がきれいに伐られ、一部は復層林としてスギが植えられているのだった。最近伐った大径木の切株があり、その年輪がごく外側まで均一に増している。鋸谷さんが年輪を指差す。

「見てください、『大径木になると肥大成長が止まる』と言っている人がいますが、これを見るときちんと成長しているのがわかるでしょう?」

しかし、密度管理を誤るともちろん成長は遅くなる。しかも雪の少ない地方では雪害による間引きが起きにくいため、稀に降る大雪で大木でさえ折れてしまうことがある。切株のスギの周囲にはしっかりと樹間が確保されていた。このような大径木の場合、釣り竿を使った密度管理をする必要はなく、枝がらみを見るだけでいいそうだ。すなわち「葉っぱが触れ合う木は最高で2本まで」を原則とする。

「おそらく、かつては社寺林のような大径木の管理体系というものがあったのではないかな。そういう伝承が途切れてしまったんだね」

お次はかつての私の昆虫採集コース、「花園橋バス亭~小川・定波」を車で走ってみる。道がすっかりきれいに舗装されてしまい、山の神の鳥居も見逃すところだった。かつてはほとんどが未舗装で、岩清水が道を横断し、そこにアゲハチョウの仲間が吸水に訪れていたりしたものだった。ここ花園山は、昭和の始めまで驚くような多樹種の原生林が広がっていた場所であり、私たちはその最後の名残りで昆虫採集をやっていたことになる。その雑木はみなパルプになってしまったのだろうか? 現在はスギ・ヒノキがびっしりと植わっている。手入れが遅れて線香林状態のところもある。しかし、一部でいい感じに密度管理されたスギ林を見たし、チョウを追い掛けていた25年前に、伐られて放置されていた場所は、広葉樹が回復してきている。花園はいま微妙な状態にあるのかもしれない。しかしここはいつ来てもいい所だ。この山深さ、人家なき道の長さはどうだ。よくぞこんな所を歩いていたもんだ。

「ここを独りチョウを採りながら歩いていたんですよ」
「いったいどんな高校生だったの?」鋸谷さんは呆れている。

小川の集落からさらに奥に進み、定波の「小川学術参考保護林」まで行ってみた。かつての花園の原生状態を偲ばせる林相が、ここにわずかに残されているのである(約100ha)。この近辺は今でもチャマダラセセリ、クロシジミなど絶滅危急種となってしまったチョウが採れる。わざわざ県外から採集に訪れる人がいるほどである。それにしても飛んでいるチョウが少ない。

車は阿武隈山地南端を横断する。なだらかな山並みに、
「羨ましいねえ、なんて林業に向いた場所なんだろう!」と鋸谷さんは嘆息をついている。雑木の場所はごくわずかだ。ほんとうによくスギ・ヒノキが植えられている。

「これだけの仕事を昔の人たちはやってくれたんです。その作業に従事したほとんどの人は林業の素人だったはずです。よく拡大造林を『悪』と決めつける人がいるけれど、とんでもない間違いだ。問題なのは、今のわれわれがこの遺産をどう受け止め、引き継ぐかだ」スギ林を眺めながら鋸谷さんが言った。

(日の出日記◆145.鋸谷さん水戸へ★’02.6.29)

森にも動物たちにも家にも、いい風が流れてくれると良いな。


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