東京の六本木の会場で行われた環境系の講演を聴いてきた。近年ハチの大量死が問題になっているが、主催の「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」ではすでに本年7月に”日本でなぜミツバチが減少しているのか~ゆたかな生態系を取り戻すために~”というテーマでセミナーがおこなわれており、ミツバチ減少の原因は新農薬ネオニコチノイドに間違いない、という結論が出ている。今回はその人体毒性に体するレポートだ。
事務局長の挨拶
■どうする!増え続ける
浸透性農薬 ネオニコチノイド (2009年9月13日(日)午後1時30分~4時30分)ミツバチ減少の原因と疑われている新しいタイプのネオニコチノイド系農薬。実は私たちの身の回りでも、安全な農薬として近年多量に販売、使用されていました。樹木消毒から、住宅の床下消毒、花卉、ガーデニング、減農薬野菜、お茶、果物まで幅広く日常的に使用されています。
その影響はミツバチだけでなく、人に対しても深刻な被害が出ていました。
今回の学習会では、知られざるネオニコチノイド系農薬の深刻な人体毒性について、その被害の実体を知る医師と研究者からからお話いただきます。
ネオニコチノイドは、中毒症を起こすと不整脈、狭心症、心電図異常、短期の記憶障害を起こす可能性が指摘され、低用量でも慢性暴露により鬱病の一因や、胎児小児ではADHDなど発達障害の要因となる可能性が指摘されています。
一人でも多くの方に、この問題の重要性を理解していただき、手遅れにならないうちに日本でも対策が取られるように、みなさんと共に考えていきましょう。講演
「深刻なネオニコチノイド系農薬の人体被害」
青山美子氏(青山内科小児科医院 医師)
平久美子氏(東京女子医科大学東医療センター麻酔科 医師)
「危惧される新農薬のヒト脳への影響」
木村-黒田純子氏(東京都神経科学総合研究所)
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さて、講演開始。
「あんた、こんなの子供に飲ませちゃ絶対ダメだよ」
テーブルに立てたペットボトルのお茶を指差しつつ、青山先生が演台に上がった。まずはNHK『クローズアップ現代の』のVTRから。長野県上田市でマツクイムシ防除の空中散布で園児などが多数の被害を訴えた件。そして、青山先生のところにかかっている患者さんの手の震えの映像。
下写真は群馬県前橋市周辺の平成16年度のマツクイムシ防除の空中散布と患者発症の分布図である。薬剤はネオニコチノイド系の商品名「マツグリーン」。液剤を100倍希釈したもので、ヘリコプターによって1ha当たり1.2tという大量の散布が行われていた。
紫丸が散布地、赤丸が患者発症地だが、これを見ると山麓だけでなく、都市部の玉村・新町付近でも撒かれていたことがわかる(県立近代美術館のある「群馬の森」付近と思われる)。赤城南麓はとくに多く、ゴルフ場でも撒かれている。そして、方々で種類の違うネオニコチノイドを撒かれることで相乗効果もあるらしい。
前橋は関東平野のどん詰まりにあり、3方を山に囲まれ山から風が流れて溜まりやすい場所ゆえ、患者が多発。前橋市で開業医をしている青山先生は、神経毒症状で駆け込んでくる患者たちとネオニコチノイド系農薬との相関関係を見いだし、県などにかけあって今は散布自粛にまで持って行ったそうである。
これまで使われていた有機リン系の農薬との違いは、有機リン系は内蔵を破壊する毒だったものが、ネオニコチノイドは昆虫の脳や神経に作用して昆虫の動きを麻痺させてしまうもので、しかも水溶性で揮発もするので土地への残留がなく、人体に影響がなければ安全農薬と考えられていたのである。
しかし、マツクイムシ(甲虫の一種。マツ枯れはマツノマダラカミキリに寄生する線虫が引き金となって枯死に向かう、というのが現在の公的学会での定説/下注参照)だけが死ねばいいけれど、森林に空中散布すればミツバチなどにも当然薬かかかるわけで、まず他の昆虫への被害の問題が考えられる。
それどころか、人間にも大きな被害をもたらすことがわかってきた。神経毒の特徴として「めまい」「動悸・息切れ」「手のふるえ」「鬱になる」「凶暴になる」などの症状があり、これは明らかに有機リン系とは違う。いわゆる鬱、引きこもり、キレるなどの異常犯罪の原因は、新農薬の被爆から来ている疑いも濃厚なのだ。実は日本では92年から自殺や川崎病が急増しているが、これはラジコンヘリの導入と時期を同じくしているという。
また、近年ネオニコチノイドはお茶畑、果樹園(リンゴ、ナシ、モモ)などに大量散布されており(たとえばナシ畑にはスピードスプレイヤーという機械で年に100回!は撒くという)、お茶を日常たくさん飲む人、果物を食べる人に同じ症状が出ている。まだ若い20代、30代という患者が、80代老人の脳梗塞患者のような心電図を示している。
その患者さんへの処方は解毒剤と食事療法で、つまり下剤などで体外に出し、お茶や果物を止める、ということなのだが、それだけで症状は治まってしまうという。それにしても、酷いのは日本のネオニコチノイド残留基準の甘さである。たとえばリンゴ。EU(ヨーロッパ)諸国の残留基準は0.1ppmなのに日本は5ppmと50倍!(実際の検出例でも4.9ppm。日本農業は農薬大量散布が通例なので残留キャパぎりぎりであることが多い)。お茶については・・・これはもう絶句するしかないのだが、EUが0.1に対して日本は50ppmとなんと500倍!!! という緩さである。講演初めの「こんなの子供に飲ませちゃ絶対ダメだよ」という青山先生の怒鳴りも納得、なのだった。
水源の汚染にも言及された。水道水源に関するネオニコチノイドの検査基準はない。しかも、活性炭では多少除けるものの、浸透膜は通過する。全国多くの急速ろ過の浄水場ではスルーして蛇口まで行ってしまうのだ。
もうひとつ、生協関係で「減農薬野菜」として販売されている野菜はほとんどネオニコチノイド農薬が大量に使われており(政府基準を信じて)、かえって危険だという。今回、聴講者の中には明らかに生協関係のオバサンだな、という人たちが多数来ており、悩んだ表情をしていたのが印象的だった。
いやいや、それだけではない。家庭では建材の中に(合板の防虫剤として)、ガーデニング用に、ペットの蚤取りに、床下のシロアリ消毒に・・・
こんなことでいいのいか? いいわけないのだ。このままでは子供たちがみな狂ってしまう。霞ヶ関のみなさんだって水道が悪ければボケになってしまう。新政権になってチャンスが訪れた。この原因には官僚の企業への天下りとマスコミの癒着、という問題もあるわけで、まずはその根絶。そして「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」では「化学物質基本法」の制定を提言し、実現に向けて準備中とのことだ。
平先生のレジュメから。
まとめ:ネオニコチノイドは植物に蓄積する。
・水溶性、浸透性で、植物に吸収され、蓄積する。
・撒いてから長期間、殺虫効果を発揮する。
・植物体内でやや分解されるが、分解されたものも殺虫効果がある。
・ネオニコチノイドは主に脳に作用する。
・ネオニコチノイドの一種は脳に蓄積もする(体外に出にくい)。
・他の農薬との相乗効果が大きい
黒田先生のレジュメから。
ヒトと昆虫の神経系はよく似ている(これには一般の人はびっくりだろう)の図。
地球人類誕生から現在までの時間軸を1年に置き換えてみると? 4月にバクテリア誕生、このときすでに神経系が存在。12月31日12時が現在で、新農薬出現は大晦日の深夜・・・・。
いやはや、戦慄の講演会だった。いま銀座のビルの屋上でハチを飼っているグループがあって、そのハチたちは皇居の森や浜離宮の森から蜜をけっこうな量採ってくるという。いま、田舎のほうが危険なのだ。そういえば今年は都市のほうがセミの声の量が圧倒的に多い。
とうなってしまうんだ? この国は。
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参考/ネオニコチノイド系の農薬の商品名と製造元一覧
「アドマイヤー」「メリット」(バイエル社)野菜用
「モスピラン」「マツグリーン」「イールダーSG」「アリベル」(日本重曹社)野菜・果樹用・松枯れ
「スタークル」(三井化学)カメムシ、ウンカ/稲用
「アクタラ」(シンジェンタ社)野菜
「ベストガード」(住化武田農業)稲、野菜
「ダントツ」(住化武田農業・バイエル社)稲、野菜
「ハチクサン」(バイエル社)シロアリ防除
「ウィンバリアード」(日本農薬)
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注)松枯れに関しては、私は松枯れ防除剤を撒く(使う)必要はまったくないと考えている。カミキリムシ(ザイセンチュウ)入る原因は松自身が衰弱したからで、その衰弱の原因は芝刈り(ぼさ刈り)や落ち葉かきを行わなくなり土地が肥えたからである。松が枯れても禿げ山になるわけではなく、その下には雑木が生えてきており、樹種が入れ替わるだけで、これを自然の遷移と考えればよいのだ。
つまり枯れる場所は枯れる任せておけばいいのである。これは私だけでなく、良識ある林業関係者の見識であると思う。たとえば鋸谷茂氏、神宮宮域林の前営林部長木村政生氏(講義録.神宮崇敬会講演録3『神宮宮域林について』)、後藤伸氏などもナラ枯れにおいて同様の見解を述べている。特殊な場合を除いて枯れ木を切り倒す必要もない。
しかし、林野庁とその研究機関である独立行政法人森林総合研究所や、県の林業試験場などはこれをなかなか認めない。彼らのこれまでの仕事がいかにムダであったか、をさらけ出してしまうからだ。また、松枯れ防除剤の製薬メーカーが林野庁の天下り先の一つであり、松枯れ放置でいいとなれば、彼らの仕事(ラジオコンヘリ製造メーカー、森林組合も含めて)がなくなってしまうからだ。
しかし、もうそろそろ限界だろう。同じ税金を使うなら健全な方向に使うべきだ。内部からの変革もぜひお願いしたいしたいものだ。
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