私の現在の携帯電話のケースである。廃布で私がデザインしてyuiさんに縫製してもらったものだ。ボタンはスギ材を自分で削って穴を開けたもの。ストラップは・・・
オニグルミの殻を使った自家製である。クルミの殻は食べるときは縦に割るが、横にノコギリで切ると面白い文様が現れる。
ストラップ作りたてのとき、DOCOMOの携帯に付けていたときの写真である。
今はiPhoneですね。
篠竹やヒノキの枝を彫ってパーツを作って、糸(釣り糸の一種)で通してある。鹿角を削ったアクセサリー・パーツだけは市販品。たしか渋谷の東急ハンズで買ったものだ。
さて、このクルミ裁断のアクセサリー・デザインは、私の発想ではない。北海道のアイヌがそのルーツなのである。昔の日記から、そのときの思い出を紹介しよう。
2000年7月に旅した北海道で忘れられない思い出がある。網走郊外にある北海道立北方民族博物館で見たイヌイット(アラスカエスキモー)の民族衣装と、網走市立郷土博物館で見たアイヌの装飾の思い出である。
中でも印象を残したのは後者の民族衣装にかけられていたネックレスであった。それはクルミの殻と貝を糸で繋いだもので、クルミの殻を横に輪切りにしたものを使っている。クルミを食べるために縦に割っていたときにはわからないのだが、輪切りにするとクルミの殻には複雑な空間が空いていることに気づく。その切断面のパターンはアイヌの伝統的な紋様に大変よく似ている。
その旅の帰りに女満別空港で思わぬ出来事が起きた。出発便を待つあいだ、取材現場で中途半端に終わらしていたスケッチの色塗りをしていると、隣に座っていたおばあさんが僕のスケッチブックを指差して驚いている。ちょうど郷土博物館で見たクルミの殻と貝のネックレスに色を塗っていたのだけど、そのネックレスを作って博物館に納めたのが、なんとそのおばあさんその人だというのである。たしかにそのおばあさんは、アイヌ特有の彫りの深い印象的な顔だちをしているのだった。
このような偶然が起きる確率はいったい何万分の1なのか何千万分の1なのか知らないが、このときから僕の頭の中には、いつかこのクルミと貝のネックレスが作品に結実するであろう予感が渦巻いていたのである。
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下の写真はそのときのスケッチブックである。記念におばあさんにサインをもらってある。
この旅の当時、東京の西多摩地区に住んでいたのだが、近所の木工ショップ「きりんかん」からニュ-ズレターへの執筆依頼があって、私は即座に第1回目にクルミの話を描こうと思った。近所の川にオニグルミの木がたくさんあって、その落ちた実を誰も拾わないので、私は毎年その実を500個以上も拾って味を楽しんでいたのだ。その紹介マップにアイヌのネックレスの話を絡めて、第一弾にしようと思ったのである。
ニュ-ズレターはモノクロなのだが、カラーで制作。ギャラはなしだ。なのにこんなエネルギーを注ぐのはバカなのかもしれない。でも私には、なにか突き動かされるエネルギーがあった。アーティストにとって、一番重要なのはこのモチベーションであり、想いの高まりだ。
その後、このニュ-ズレターは6回まで続き、その原画をオリジナル額装で店に飾ろうということになり、木工家のFさんのご協力を得て、その作品は現在もきりんかんに展示されている。
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2/6の足利ではこのクルミを使ったクラフト講師をしたのでした。子供たちは最高だナ。
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