鳥取県の三朝温泉から再び岡山に向かう。国道179号、日本海側の雪が生み出す豊かな山林。人工林あり自然林あり、竹林あり、表情も豊かだ。
上部はアカマツ(植林ものだろう)、中腹は植林スギ、その下はかなり大きなスギと広葉樹の混交林。クマをはじめ野生動物もかなり多そうである。
鳥取~岡山北部は名だたる人工林地帯・林業地なのだが、2004年に台風被害でかなりの被害を受け、私は翌年この地の被害跡を取材した。その場所もすっかり緑が蘇り、当時の倒壊地を広葉樹が埋めている光景が見られた。
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いちど建築材料の「ベンガラ」のことを学んでおこうと思っていたので岡山県の高梁市成羽町にある吹屋の町並みを見に行く。
ベンガラ(弁柄)とは銅山から産出される硫化鉄鉱を原料とした赤色の着色材のことで、吹屋のベンガラは伊万里焼や九谷焼などの陶器、輪島塗などの漆器などの塗料として高値で流通した。防虫防腐、防錆効果を持つので建築材料にも用いられ、茶褐色の石州瓦と相まって、吹屋の町の建物はベンガラ色に染まっている。
ベンガラ染めの和紙、布、焼き物など、お土産品を売る店も。蕎麦屋もあったけどだぶん・・・なので止めた。
茅葺き民家のカフェがあったので入ってみる。
ごちゃっと民芸品が並ぶなかに囲炉裏火鉢があり茶釜が下がっていた、冬には実際に使われているっぽい。行火も置いてあって、写真置きに利用されていた。ギターと譜面台もあったのでライブなんかもやるらしい。ジャズが小さく流れている。
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その後、ベンガラ工場跡を再生してつくられた博物館「ベンガラ館」で生成過程を見てきた。ここには銅山があり、ベンガラはそれら鉱山の副産物らしい(原料は硫化鉄鉱)。生産はこの地でほぼ独占状態。生成の過程で焼きや洗いがあり、亜硫酸ガスや硫酸が出るので、公害もかなりあったのではないだろうか。公共的な博物館の常として、そのような負の内容は一切展示されていない。
ちなみに現在もベンガラは工業生産され、様々な用途で使われている。着色力・隠蔽力が大きく、耐熱性・耐水性・耐光性・耐酸性・耐アルカリ性のいずれにも優れて、安価な上無毒で人体にも安全なため非常に用途は多いという(by wiki)。たとえば着色顔料(自動車、船舶塗料、カラーアスファルト他)、フェライト(磁器部品他)、磁器トナー、触媒など。日本はベンガラ(酸化鉄)の応用では現在も世界有数の技術力を持っているそうだ。
町並みはいいけれど現在の生活と繋がったものはなく、いま流行りの「小京都」を気取ったもので、闊歩する客は言わずと知れた「平成のジジババ様」である(平成ジジババ考→こちら)。
ちょっと道を外れて歩いてみると、ベンガラ色じゃない普通の古民家で洗濯物を干している普通の家があり、薪が投げやりに積み上げられていた。ガマズミが真っ赤な実をつけていた。果実酒に摘む人はいないのかな?
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帰りはフェリーで。現代日本では滅多に見れない禿げ山っぽい島が見える。公害の煙害と山火事で禿げた島だ。それでもマツなどが根を下ろしている。一方でマツ枯れが点在している島もあった。
ところで、8月下旬には徳島~高知の旅をしたが(こちら)、雪の日本海・米子から太平洋黒潮の高知までの直線距離はほぼ200km。途中に瀬戸内海を挿み、これだけ短距離でこれだけダイナミックに鮮やかな気候風土と文化と、食の違いを味わえるのは、世界広しといえど日本のここしかあり得ないと思う。