さて、あまりにも痛々しい人工林崩壊地の記事が続いたので、紀伊半島の名誉のためにも優良な自然を紹介しておこう。日置川源流の安川渓谷である。照葉樹林が残されている。所々に天然の針葉樹も配置され、一目見てその豊かな樹種の豊富さが解る。
水が青い! 岩と周囲の緑との関係なのか、息を呑むような美しさだ。
深い淵が残されている。
遊歩道の中程にある「雨乞いの滝」。やはり淵が深い青緑色で印象的だ。
尾根筋にはシャクナゲが咲いていた。
コウヤマキの天然林。
その下にシャクナゲが咲いている。関東出身の私からすれば実に不思議な組み合わせだが、北茨城の花園神社を思い出し、懐かしくもあった(境内に茨城には自生しない天然記念物のコウヤマキがあり、シャクナゲの群生地がある)
枯死株からシャクナゲの実生が出ている。
尾根にヤマモモの大樹がある。根粒菌と共生し窒素固定をすることから、荒廃した山や魚付き林に植樹したそうだ。この木も意図して残された木なのかもしれない。
こちらも今年は雨が少ないそうで尾根は乾燥しているが、土はフカフカで、苔もよく発達している。
糞虫のオオセンチコガネ。関東では赤紫だが、紀伊半島ではルリ色になるそうだ。まるで渓谷の淵の色を真似ているかのようだ。
途中、ヒノキの人工林がちょっとあるが、渓谷沿いではまた照葉樹が復活する。
ヒメカンアオイ。
ギンリョウソウの群生を見つけた。
遊歩道とはいえ、けっこう険しい場所もあり、桟道が付けられた所もある。またヤマビルが多い箇所も通過(笑)。
トガサワラである。日本固有種で、紀伊半島南部と四国の魚梁瀬のごく限られた場所に自生する珍しい針葉樹。
その球果。原始的な香りがする形状だ。
安川渓谷は「紀伊半島の渓谷から山の尾根への特徴をコンパクトに表現している」といわれ、日置川源流でも名溪として名高い。ところが、地図で見ると熊野(いや)崩壊地から案外近く、直線距離で6~7kmしか離れていない。距離感で2尾根先といった感じなのだ。
2011紀伊半島大水害のときも同等の雨量があったに違いないのだが、なぜ安川渓谷は全く荒れた感じが見られないのだろうか? それは流域の山林にヒントがある。法師山と大塔山は照葉樹とブナが残っているのである。源流に紀伊半島有数の天然林が残されているのだ。
一方、熊野(いや)崩壊地は板立峠に閉塞された水源域のほとんどが人工林なのである。両者は同じ「大塔日置川県立自然公園」地内にあるのだが・・・。