前夜、9時頃に大津のHACHIYADOに到着し、イタル・リンダ夫妻と居酒屋へ食事・打ち合わせに出る。囲炉裏暖炉のパーツとして「台座、石、フード、6角形の炉縁、煙突」などなどがあり、その周囲として室内の仕立て「外部とのガラス戸、室内内装(フローリング、しっくい壁、天井)」などの仕事が山積みしている。それぞれの設計と素材の進行具合を聴きながら、明日からの仕事を決めていく。
朝イチで近所の石屋さんに行く。僕のアトリエでは地元香川の「鷲ノ山石」というものを使ったが、今回は耐火の自然石としては最もポピュラーな大谷石を使うことになった。サイズは僕のアトリエのものとほぼ同じで、3つを組み合わせて立てる。
石の表情を見ながら裏表を決め、表側にスリットを入れる。
石の目が粗いので今回はピッチをやや広げることにした。
逆T字の台座部分は花崗岩になった。花崗岩は火には弱いが硬度は強い。このように石を使い分けるとコストダウンが図れる。
今回はいかに安く作れるか? も大きなテーマである。夕刻には湖東の工場に煙突を取りに行ったのだが、基本は直径225㎜のスパイラル管(亜鉛鋼板)を用いることになった。煙突に既製品を使うだけでも相当なコストダウンになる。
帰りにイタル君にたのんで野離子川の河口を見せてもらった。イタル君たちの集落はこの川から水路を引いている。
ところがその琵琶湖への出口は、信じられないほどか細いものだった。
いくつもの集落や新興住宅地(別荘地)などに水が引かれ、河口に出るまでにほとんど涸れてしまっているのだ。琵琶湖の湖面との接点は、下写真のようにわずかこの幅(幅1メートルにも満たない)だった。
その代わり、各戸で使われた雑排水や農業用水の出口が湖岸道路を何本も渡っていた。その中には野離子川本流よりも太い流れがいくつもある。
今回はアトリエから炭セットを持参した。ワークショップの中で火鉢の使い方を一緒にやりたいということであった。囲炉裏暖炉を使っていると熾炭ができる。その熾炭を火鉢で使うと便利なのだ。その感覚を覚えてほしい。というか、火鉢そのものの使い方がわからない人が大変多いのだ。
前回の石組みの基壇に捨てコンクリートがすでに打たれている。この上に逆T字の台座が載る。
壁を抜いた裏側。ここは大きな2枚の引き戸(ガラス戸)が入る。
銘石、守山石を見せた台座の土間側。その上に自然石の形に切り取って合わせた型枠が組まれている。本当は、今回のワークショップで石組みまでやる予定であったが、ちょっと遅れて石が間に合わないので、今回は大工のMさんにお願いして、合板で石のサイズのハリボテを作ってもらうことにした。
昼間、Mさんが来ていろいろ打ち合わせ。土間側のフローリングの框(かまち)のディテールも重要なところなのだが、前回描き起こした図とMさんの大工の理解とが一致してそれらの納まりも見えてきた。
室内の改装とのつながり、そして手持ちの素材の選択もあるので、これら総合的な設計は非常に難しく、図面をいきなり引くというわけにはいかない。現場合わせをしなながら徐々に見えてくるのである。施主のイタル君もそうとう勉強したようで、断面図なども自分で起こせるようになっている。
Mさんが天井の煙突の位置に自作の治具で円を描き、ジグソーで穴を開けてくれた。
今日は途中で山林にも入り、隣に住む叔父さんの立会いのもと次回の間伐イベント用の選木も行った。細めのヒノキ3本とスギ1本を選んだ。3月末の当日にはそれらを伐採し、それを道まで運んで、4月に大阪で行われる縄文小屋作りのワークショップに使う予定である。
石屋さんから聞いた話では、比良山地のこの一帯は、あるところから花崗岩質に変わり、すなわち全山が岩山であって、昔はボサ山(雑木林)だった。住民はその薪を採取し、対岸の近江平野に舟で売りに出していたという。
近江平野は広大な農地に恵まれているが、そのぶん山が遠いため、そうまでしても薪の需要があったのだ。しかし、今ではスギ・ヒノキが植えられ、誰も山に入らない。もちろん、細い薪や炭を買う人・使う人はほとんどいないのである。
昔の山のことをよく知る石屋さんは、
「そのうち大きな土石流災害が起きるよ、心配だよ」
と言うのだった(そこには新興住宅地や別荘地もある)。
急斜面のボサ山を伐採・萌芽更新萌芽更新させながら維持していくのは、山を崩さない知恵でもあった。15年ほどで伐りながら維持すれば、支持根を温存させながら斜面を守ることができる。
そこはいま放置されて雑木が大木になってしまっているか、植えられたスギ・ヒノキが雪折れや根倒れを起こしているのだ。加えて川を分断する堰堤や湖岸道路によって、地面の空気通しが悪くなり、農業用水や琵琶湖の水質にも悪影響を与えている。
間伐と「大地の再生」を併せた山林再生が、どこでも急務になっている。囲炉裏暖炉ができるカフェHACHIYADO339は、薪を燃やす=山林再生の活動を実践・啓発するだけでなく、そんな情報の発信基地にもなるはずである。