崖崩れの現況。右端がリンダさん。正面がリンダさんの小屋。左に道路と鋼矢板が見える。これは仮設工で役場側が立ててくれたもの。道路の向こうはすぐ沢になっている。
反対側から。正面が天理教会が使っていたというやや大きめの建物。左手の丘はMさんの畑になっており、右側はけっこう急な斜面で石垣が2段になって隠れているようだが、現在はヤブ化。カシやカエデ類が斜面を支えてはいるが、すでに建物に沈みが見える。
初日、参加者はなんと40人超という盛況ぶり。矢野さんは座学から始めることにしたようだ。自己紹介もこれだけ人数がいると時間がかかって大変だが、大地の再生講座では欠かさないのが習わしである。
崖崩れ当時の写真が映される。夜中に崩れて駐車していた車ごと落ちたそうだ(轟音のような音はせず、わりとゆるやかに崩れたらしい)。道路は土砂でふさがれそれを撤去して矢板が打たれている。このまま一般の土木工事に流れるとすれば、ベルギーワッフルのようなコンクリート法枠工を施して、鋼矢板とH鋼を撤去する、ということになるだろう。
しかしそれではいよいよもって大地の呼吸にとどめを刺すことになる。呼吸できなくて大地が破裂したのだから、現在は崩れたことで空気通しは回復し、安定勾配を保っている。いまの地形を生かしながら、水と空気を通すかたちで斜面を補強し、かつ敷地全体の気・水脈をスムーズにさせる・・・という「大地の再生」手法が施されることになる。
枝葉、竹、炭、チップなどの有機資材の他に、焼き杭がたっぷり。
ヒノキの間伐材が用意された。
地図資料を見ながら矢野さんの説明に入る。その前にお塩とお神酒を斜面にまいて全員でお清め。
建物の道路側。この斜面の木の根が非常に重要なので、この木の樹勢を回復させる施業が必要。具体的には風の草刈り・剪定、そして道路との接線に空気抜きを施すことになるだろう。
建物の裏側に小さなお社が建っている。やはり周囲は風通しが悪く、
三本ヒノキのうち一本はすでに伐られており、残りも枝枯れや幹割れを起こしている。根の深い部分が痛んでいる証拠である。
ぐるりと回ってMさんの畑へ。
畑周りの地面ややが硬いと指摘。ツルハシで空気穴を点在させるだけでも変わる・・・と矢野さんが実演をする。ここが変われば上手のススキの背丈も低くなり、透けてくる。奥の樹林も整ってくる。まあこれは初めての人には信じられないかもしれないが、大地の再生手法「風の草刈り・点穴・水脈溝」は驚くほど遠方にまで影響を与えるのである。
リンダさんの小屋のほうに回り込む。この歩道にも水切りを入れて、歩道を水が走らず分散浸透するように導いてやるとよい。
そこを降りるとMさんの古民家だ。高台なので湿気の被害などはなさそうである。が、やはり植物の勢いがなく、埃っぽさを感じる。本当は、窓を開け放った時、家の埃が外に出て行く環境にしたい。
家のわきで鶏を飼っている。放し飼いしている柵内にはもう緑が食いつくされて見えないが、大地がエネルギーを取り返せばもっと草が旺盛に生えてくる。シカや鳥に食い尽くされるのは大地が弱っているから。
一周して道路ぎわに降りる。自然に対抗する現代土木を象徴するようなH鋼と鋼矢板。H鋼の厚みは10mm近くある。下は岩盤なので強靭である。施主が斜面工事を終えたら役所のほうで撤去してくれる取り決めだそうだが、矢野さんはこれを取ってしまわないで天端に丸太をかけてデッキをつくり、下は物置に、上部には小屋をつくるといい・・・と提案。
なんとも奇想天外な発想だが、リンダさんも矢板の道路側には地元の小学生に絵を描いてもらうというプランを温めているらしい。
周遊解説を終え、昼までの1時間、作業することになった。まずは地上部の草刈りである。「大地の再生」は先に「地上部の草刈り」、次いで「地面の水脈」という順序で作業をする。地上部を刈ることで地面の起伏や自然水脈が見えてくるからである。
急傾斜の笹ヤブにとりつく。
こちらは崩壊斜面。2年以上放置されて植生が回復している。草刈りは春夏だけの作業ではない。実は冬の整えが非常に重要であるという。風の振動を根で受けながら、春からの伸び方を伺っている、春にどう伸びるかは冬の形で決まる。
矢野さんはやや小型の重機で斜面変換線を掘り始める。斜面変換線は土圧が集中するラインで、ここに抜きを作ってやることでとくに斜面上部に良い影響を与える。
建物裏と石積みとの間はU字溝の上にさらにコンクリートが厚く打たれてまったく地面の呼吸が塞がれている。そこをブレーカーで壊していく。
左手の石積みは「練り積み(モルタルで石材同士を接着している)」なので空気通しがほとんどない。水抜きは作ってあるが詰まっている場合が多い。下部の斜面変換線を抜くことは非常に重要である。こうすることで上のMさんの畑に水が浸透しやすくもなる。そして、このコンクリートガラの多くは明日の道作りに使われることになるのでムダが出ない。
裏側のお社周りの風通し改善。サザンカの風の剪定。長年放置されて相当詰まっている。矢野さんはこの木のボリュームの約半分の枝を抜いた。現代の植木屋さんはこの自然樹形に習った抜きの剪定がほとんどできていない。外側をバリカンで刈るだけで、見栄えはいいが風が抜けないのだ。
こうして明るく風通しのよくなったお社前。見ていても気持ちがいい。適度に切られることで、風が抜けることで、樹木は細根を出す。地面に空気が通り湿潤さも保たれ、斜面も安定する。
一方、放置され鬱閉(うっぺい)してヤブ化すると、樹木は苦しくて強根(こわね)を伸ばし、地面は乾燥する。すると斜面が不安定になる。ときとして岩盤や石垣を壊してしまうこともある。うまく管理して樹木を味方につけることが、傾斜のある山村の暮らしではとても重要である。
だいぶすっきりした斜面。
このあと、下の石垣の天端辺りに移植ゴテで空気抜きを入れた。
長野から応援にかけつけたAさんも重機を動かす。鋼矢板の前には手作りの看板♬
Mさんの敷地周りに点穴を作る班。
建物の水落ち部に水脈溝。炭を入れる。木(竹)材は燃えることで強酸の煙・木酢(竹酢)と強アルカリの木灰になる。その中間である炭は磁気的なエネルギーを持ち、多孔質のために様々な効能を発揮する。微生物のすみかになり保水力をもつ。また、泥濾し、有機ガスの吸着・放散という仕事もする。水脈に入れた有機資材はやがて腐る過程でガスを放出するが、そのマイナス因子を炭が消してくれるのだ。
Mさんの敷地の下部。道路ぎわに落ち葉と泥が堆積し嫌気的(酸素の少ない状態)になっている。有機ガスが発生して上部の植物を弱めている。ここに点穴を連続して入れてやり、枝と炭を入れておく。下がコンクリートやアスファルトでもこれだけでガスが抜ける。
全体の空気の流れの見通しがついて、天端の並木の剪定。とくに下部の枝を抜き、地際をやわらかく風が動くようにする。抜きすぎると風が動き過ぎ、遠くの空気まで引っ張ってしまう。すると、過乾燥になりがち。程よくが大事。やわらかく、風が遠景までつながることを常に意識する。
作業の途中で一歩引いて、カメラのズームを変えるように眺めて確かめる。矢野さんのアフター。
終了後、室内で感想会。今日はこことMさんの古民家に分散して泊まる。
私は矢野さんと打ち合わせのため別の宿へ。その前に鹿肉のカレーと、
リンダさん手作りの鹿肉の燻製、いぶりがっこ(タクアンの燻製)などをいただく。
宿は梅の郷月ヶ瀬温泉近くの民泊「月ヶ瀬・森の茶論」、ウッディで素敵な宿でした♬