豪雨被害1年と再生マニュアル


西日本豪雨からちょうど一年が経とうとして、テレビで災害の報道特集があれば見るようにしているのだが、6月30日(日)のNHKスペシャル「誰があなたの命を守るのか “温暖化型豪雨”の衝撃」では避難の遅れと今後の対策しか語られなかった。また今朝の「あさイチ」では九州北部豪雨の跡地を巡ったのだが、パーソナリティの一人が流木被害について「みんな戦後に植えられたスギ・ヒノキですよね」と言ったきり後が続かず、沈黙の時間が流れた。

防災ハザードマップのアプリを作ったり、自治体では自主的な早めの避難を勧めていたりするが、原因は記録的な豪雨であり、災害の真因とその防御対策については、何一つ語られないのが現在のマスコミ状況である。最近では航空機による地形の細かなヒダが確認でき、放射性同位元素を測定することで土層の歴史もわかるようになってきたそうで、土石流の対策にも活かせるかもしれないとのことだ。しかし「活かせるかも・・・」という段階なのである。

地下浸透が激減

私は長年スギ・ヒノキの人工林問題を扱って書いてきたが、大地の再生の矢野氏と出会って植物の根と土の状態のことを学ぶうちに、これまで欠落していた知識が補完され、一年の取材を重ねることで、氏の言うように「地中の詰まり」が崩壊を招いていることに確信を持った。

いま製作中のマニュアルにその原因を語る章を設けているが、戦後のコンクリート土木の固め打ちで、建築物の基礎コンクリートの多投で、道路建設の肥大化で、土そのものの面積が縮小している。これはどういうことかというと、雨が浸透する面積が昔に比べて激減しているのである。

山岳部に降った雨は地下水脈に深く浸透するものもあるが、丘陵地や平野部では地表から植物の根を通して浸透し、やがて地下水脈に合流して河川や湖沼や海に流れていく。それがいまでは鏡のようなコンクリートやアスファルトに落ちた雨がU字溝に集められ、暗渠に落ち込んで、地面に浸透することなく河川や湖沼や海に流れ落ちていくのだ。当然ながらこれは洪水被害の速度を速める。

グライ化とヒートアイランド

雨水は浸透することで浄化される。植物の根や表土の微生物のフィルターを通して地下水になることで、そのまま飲めるほどの水質になる。また、植物(とくに樹木)の根が雨水や地下水を保水していることで、空間を調湿し、夏は涼しく、冬は暖かいという環境が保たれる。それが失われることでヒートアイランド現象が加速する。

さらにコンクリート土木は浸透を妨げるだけでなく、土中の無酸素化を進行させるのである。植木鉢を思い起こしてもらうといいが、植木鉢は底に穴があいていることが重要で、ここから空気が抜けたり入ったりしている。この穴があることで水はけがよくなり、植物が育つ。コンクリート構造物は結果的にこの穴を塞ぐことをしている。

たとえば山の斜面と平野部の境界にアスファルト道路やU字溝などの構造物ができると、植物の根による地中の空気と水の流れはここで遮断される。構造物が大きければ大きいほど、重量が重いほど、この遮蔽力は大きい。

すると構造物の際から土が無酸素状態になっていく。グライ土壌といって、ドブ臭い還元土壌になっていくのである。すると普通の植物は衰退していく。無酸素状態の土に根は張れないからである。この状態が長く続くと、このグライ土壌はじわじわと広範囲に広がっていく。その詰まりは斜面さえ登り始めるのである。

植物の衰弱がもたらすもの

グライ土壌は無酸素というだけでなく、有害な有機ガスを地上に放出する。実際、掘り出してみるとドブくさい腐敗臭のする粘土のような土である(土砂崩壊の被災地の初期にはこの臭いが充満していることが多い)。このガスはやはり斜面を漂いながら植物を衰弱させ、枯れ枝が落ち、つる植物が這い上がり、周囲はヤブ化していく。

植物が疲弊すると、土の場所でも浸透能力が悪くなっていく。還元土壌になると嫌気性の微生物が増えて、腐葉土を分解し始める。すると土が露出する部分が現れ、雨のたびに地表を泥水が走るようになる。そして窪地には泥だまりができ、それが地表を塞いでさらに無酸素化を進めるのである。

地表を雨水が走ればその勢いが地形を削り、泥水を出すだけでなく崩壊のきっかけを作る。雨がくまなく浸透するということは、地下水を涵養するだけでなく、地形を保つためにも重要なことなのだ。

大雨による地下水位の上昇とスポンジ崩壊

人工林のスギ ・ヒノキは、その生い立ちから直根がない場合が多いが(植林時に直根を切って植えることが多い。また挿し木苗は直根が出ない)、地中がグライ化すれば、広葉樹ですら直根は衰退し、側根だけで絡み合っているような状態になる。

構造物が水脈を遮断しているそのような斜面で大雨が降ると、樹木に満たされた斜面でも大崩壊を起こす。たとえばダムや砂防堤やの水位が上昇したとき、上流に向かって地下水位が遡っていき、木の根の層が水を含んだスポンジのようになり、グライ層との間にすべり面をつくるのである。

これはむしろ緩斜面の沢筋のほうが起きやすい崩れといえるだろう。昨年の西日本豪雨ではこのような場所でたくさんの崩壊が起きた。また人工林の崩壊は多大な流木被害をもたらすが、これらが土砂ダムを作るとそこで一時的に水かさが増し、地下水位の上昇が起き、前記の崩壊が頻発するのである。

その解決策——自然が後押しする

これを解決するには構造物に穴を開けて通気通水を促すのが一番だが、許可なく公共物にそんな手を加えることはできないから、大地の再生の創作技である通気浸透水脈や点穴を構造物の近くに穿って少しでも地中の空気通しを改善する。そして「風の草刈り」や剪定によって風道を通すことで、地中の空気を動かすことが良いのである。

疲弊した人工林を針広混交林に変えたり元の広葉樹林に変えたりするには何年も時間がかかるが、この大地の再生の手法は瞬く間に効果が現れる。なぜなら根の健全さが植物にとって最大の鍵だからで、空気が通って根周りの土環境が変われば、そのネットワークが連鎖的に広がっていくのだ。

空気もまたしかりで、一カ所を改善すれば、風は流体なのでかなり広範囲にまでその影響を及ぼす。地上も地下も空気が通り出すと植物は健全な姿(本来の樹形)に戻っていき、お互いに棲み分けして、ヤブが消えていく。そうして一つ一つの植物がくっきりと浮かぶ姿は美しい。

再生元年の年

その結果、さらにその樹木(植物)たちの根が、土砂崩壊を防ぎつつ、空気を通し水を浄化するという機能を自ら強化していく。つまり自然が後押ししてプラスの連鎖が起きるのである。これには普段の観察と手入れが不可欠だが、美しい環境がよみがえり、土砂崩壊の危険を回避できるだけでなく、このトータルな環境改善によって、林業、農業、漁業に到るまで絶大な再生効果が現れるのだから、やらない手はない。

崩れをさらに巨大なコンクリートで防御しようとする姿勢は、長い目で見ると逆効果であり、自然をますます破壊するだけである。アメリカでもヨーロッパでも、過去の反省からすでにダムを撤去する工事がどんどん進んでいる。日本のような急峻な地形は流れを止めようとすれば悪い効果が起きやすく、また逆に改善も早いといえる。雨が多く植物の繁茂の力も他国に比べ断然強いのだから。

まずは第一弾として災害の再生マニュアルを世に送り出すが、この「令和」という新しい年を再生元年の年にしたい。


「豪雨被害1年と再生マニュアル」への2件のフィードバック

  1. ハイ^_^
    大地の再生 マニュアル本!
    点穴掘りながら、風の草刈りしながら、
    待っている人がたくさんいますっ
    楽しみに♪楽しみに♪しています〜♪

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