朝起きると、久しぶりの雨だった。明け方にベットルームの下地窓から元気に飛び出していったドリーが、外から入れてくれと鳴いた。そして、窓を開けると勢いよく部屋に入り込んできた。もちろん足は汚れているので、ドリーをキャッチして洗面所の雑巾で足を拭く。
初めての冷たい雨に打たれ、そして窓からの出入りが成功したことの嬉しさなのか、その後は「グルグル」と喉を鳴らしながら、もう一度寝ようとする僕の顔の周りを何度も行きつ戻りつする。けっこうな重さになったドリーに喉の辺りを踏まれたりして眠るどころではなく、いいかげん嬉しさを通り越して「カンベンしてくれ〜」と床に放り投げると、ドリーは2階へ上がって静かになった。
午前中は郵便局と銀行の通帳の付け込みと支払い。そして傘を買わねばならなかった。しばらく前の旅先で傘をなくしてしまったのだ。傘は取材のときにも必要な道具で、ノートが濡れないようにメモをとるには、カッパだけではダメなのである。
傘がないので帽子をかぶって外に出た。雨音を聞くと怯(ひる)んでしまうけれど、帽子を被って外に出れば、案外雨なんてそれほどでもない。そういえば彫刻家の流政之が「男が傘などをさすものではない」と、帽子とコートを推奨していたな(笑)・・・などと思ったのが前振りだったのか、今日は思いがけなく帽子を買ってしまった。
以前から念頭にあったモンベルの登山用の傘を、いい機会だから購入しようと思って出かけたのだ。近所にモンベルのショップがあり、私はカードを作って会員になっている。ここまで買わずに迷っていたのは、モンベルの傘は軽くて性能は良さそうなのだが、値段が高いのである。それとモンベルのロゴがずいぶん大きく刷られているのが嫌だった。
傘は取材道具の一つなのだから・・・と自分を納得させて選んでレジに持っていくと、会員カードを忘れていることに気づいた。無ければポイントが付かないんだそうだ。せっかく有料でカードを作ったのにそれでは悔しいので、また夕刻買い出しのときに出直そうと思った。
ところが専門店街を歩いて戻るとき、に気になっていた帽子屋にふらりと入ったら、目に止まったハンチングが気に入ってしまったのである。これまた取材のために冬用の帽子を買わねば・・・と思っていた矢先であった。これが、モンベルの傘とほぼ同じ値段、というのも符号だった。
傘はとりあえず100円ショップの透明傘で間に合わせることにするか(笑)。
(続く)