大地の再生講座@奈良(1)/土・石・植物による土木


奈良で行われる大地の再生講座、会場は宇陀市室生西谷にある古民家。この家と土地を購入して大阪から移住されたご夫妻。リフォーム計画しながら住み始めてみると湿気が多く心配していたところ、昨年の台風で裏の法面が土砂崩れ。矢野さんの講座を開きながら応急処置をして、今回が2回目の講座。

どうやら家の下に水脈ができてしまっているらしいのだが、前回の講座では屋根下の水路のコンリートを鑿岩機で剥がし、そのガラを底にばらまき、さらに炭を入れている。それだけで通気がよくなり石の間から植物が吹き出すようになった。

しかしガラの量が多すぎて、水路を埋めすぎてしまっているところがある。それを取り除く矢野さん。その加減は移植ゴテで撫でながら、引っかかって動く石を取り除く・・・という感じだ。水になった気持ちで・・・といったところだろうか。

こうして理想的な石(コンクリート・ガラ)の配置になり、さらに炭が土に噛んでくれるとさらに良いという。小さなところ・構造物でも、考え方と作業は繊細である。

次いで、家の裏の崩れを見に行く。崩れたところから水流を導き出し、敷地からの出口付近に掘られた点穴。右側は高い石垣になっており、左側は・・・

ブルーシートがかかっている崩壊跡。

下から遠景で見ると。

さらに遠くから。何段にも石積みのある谷地形で、いたるところに水の流れを感じる場所である。

崩れた斜面は山林ではなく、上の敷地に続く斜面だ。かなりの傾斜だが、石積みはなく灌木の植栽があるだけ。

上部はとりあえずブルーシートで覆っている。

崩れた土砂は、家を壊すまでにはならなかったが、壁に土が押し寄せていた。それを重機で取り除き、新たな水みちをつけて家の両側に水脈を導く。

小型重機ならこの程度の杭で十分に保つ。土が漏れないように、隙間には植物の枝や表土などを挟み込んである。杭を打って重機が入る水平スペースを作り、そこを拠点として崩れた斜面に部分的に階段状の地形を作る。石が出ればそれを優位に組み込み、さらに植栽を利用して根を張らせる。

そのようにすれば空気と水がうまく流れて、崩壊のエネルギーを溜め込むことはない。すなわち土と、石と、植物によって斜面を回復させていく昔の土木である。もちろんそのような有機的な構造物は、メンテナンスが欠かせない。とくに植栽木の剪定は重要である。それをうまくやれば、非常に重要な土留めの力となる。

私は群馬のクワの木を思い出した。群馬の山間部はかつて養蚕のたいへん盛んなところで、クワをそこかしこに植えていた。そのクワの群馬での別名は「ドドメ」、すなわち「土留め」なのである。

クワはお蚕のために枝葉を切られるが、枯れることはなく高さを低く保ちながら幹と瘤を太くしていく。その根はしっかりと斜面を支え、また細根は水や空気の通り道となり保水力を高めたことだろう。

崩壊法面にグライ土壌が見える。水と空気の通りの悪い土壌では、酸素がなく嫌気的になる。有機物が無酸素状態で分解され、硫化水素などの有機ガスを発生させる。それが植物の根を痛める。

私の畑敷地でも、最初の荒地を開墾した当初、一部にこのグライ土壌が現れてぎょっとした。青灰色でドブ臭く、当時は「昔の埋め立て工事で悪いものでも埋められたか?」などと思ったが、グライ土壌だったのだ。たしかにそこは斜面の変わり目のところで、畑の畝をつくって耕していたら、もうそれはわからなくなった。

その後、前回施業した敷地を見て回る。屋久島では掘った水脈に木の枝・葉を入れるだけだったが、ここではコルゲート有孔管を埋めてやや大掛かりな「通気浸透水脈」を作っている。有機素材には竹が多く使われているようだ。

続いて敷地から外れた町内の崩壊斜面を見に行く。

いたる所に崩壊のきざしがあるのだった。アスファルトの道で分断されているだけでなく、見地石ブロックも目詰まりをおこして排水パイプが機能していない。

コンクリート構造物はそれ自体は強いが、周囲が弱くなる。グライ土壌で植物の根が張れず、空気や水が出ようとして、崩壊を起こす。屋久島の講義で聞いたのだが、紀伊半島の弥山の調査では、山林の上部にまでこのグライ土壌があったそうだ。

つい先日、大分中津・耶馬渓で山林が崩落したが、ほとんど雨のない状態でのことだった。Googlで航空写真を見ると、現地は明らかに手入れ不足の人工林だった。現地調査した専門家は「斜面の地下の基礎となる岩石が著しく風化し、いつ崩れてもおかしくない状態になっていた」としている。

大分中津・耶馬渓で山崩落、3世帯6人の安否不明(毎日新聞)

高度経済成長期から、日本はいたるところでコンクリートのダムや港湾を作り、河川を三面張にし、空積みの石垣をコンクリートブロックや重力擁壁に変えてきた。そのツケがじわじわ押し寄せているとしたら、恐ろしいことである。

矢野さんの理論と実践を皆で早く共有し、このような自然親和型の再生工事が公共事業になるようにシフトしなければ、事態はますます悪化する。人工林が大規模崩壊し、その斜面にワッフルのようなコンクリートを塗りたくられる光景を、私は嫌というほど見てきた。本来豊かだった森を伐採してスギ・ヒノキに植え替えたあげく、放置して荒廃させ、さらにとどめを刺すようなことを、日本全国で続けているのだ。

母屋の中で昼食をいただいて、午後から具体的な作業に入る。(続く)


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