Myキッチンの改良事情


キッチンの窓から見える島影は、産廃問題で有名になった豊島である。キッチンが使いやすく居心地がいいのは、自分に合わせてカスタマイズしていったこともあるが、この窓の位置と景色も大きい。海が見えるキッチンなのだ。

この家に来て新たなキッチンの第一印象としては、なんといってもガス台のビルトインが掃除しやすくラクなこと。突起のないIHだともっと掃除しやすいが、このリンナイの3つ口ゴトクは1個づつ外して洗えるようになっている。そして最初にやったのは、使用頻度の高いキッチン道具をレンジフードにマグネットフックで吊るすことだ。これは片付け取り出しの手間を省いて料理にやる気を出させる重要なカスタマイズ。

ごちゃごちゃする調味料は吸盤付きのミニ棚で浮かせる。そこに竹串なども置いてある。とにかく使いやすいように、掃除しやすいように、使いながら考え、加えていった。

システム・キッチンの引き出し式収納はで深さがあるとても優れもので、頻度の低い道具類や、カトラリー、カップや小皿まで入る。下にも大きな収納があって、しかも皆引き出し式なので取り出すときの体勢がラクである。丸元淑生の『キッチン・バイブル/新・台所論』(講談社1996)を読んでみると、昔は高さのない引き出しにイライラさせられたそうだ。そんな部分がどんどん改良されているのだ。

収納はありがたいが、ザルとボール類はさっと取り出せる棚に置いておきたい。そこで梁を支点に吊り棚を作った。これは壁付けではなく角材で吊っているのだ。だから風の通りがよく少々水滴がついていても平気だ。冷蔵庫の側面にはマグネットで団扇(風で冷ましたいときに使う)や金網、茶こしなどが下がっている。

この梁は、設計初期案では小屋裏から続く天井に隠れてしまうはずだった。私の提案でこの三角の空間を開いたのだ。これも2階だからできたことで、もしキッチンが1階なら建築基準法の関係でこの梁は見せることができなかった。動線に冷蔵庫があるのもラク。そして背後に114㎝の距離をとって自作のアイランドテーブルがある。

ここで食事までとってしまうことも多い。アイランドテーブルはさいしょ食器棚付きのものをアイデアスケッチして家具屋さんに見積りを出したところ、無垢板ではなく集成材の天板とランバーコアの側板だったにも関わらず値段が高過ぎて、一瞬で諦めた。その頃からだろうか、設計のあるときから木にこだわり過ぎることをやめたのは。

アイランドテーブルの天板は181㎝×83㎝とかなり大きく、作業台として申し分ない。貰い物のパーティクルボードを再利用して、片方は壁付け、もう片方はコンクリートブロックに載せるという、木を愛する者としては相反する素材を使ったが、経費はタダ同然でできた。

結局、システムキッチンもプリント木目なのだから、チープな素材をうまく使って、隣接する無垢の素材を引き立たせるという手法もアリなのである。木材にこだわりすぎると身動きがとれなくなり、デザイン的に(もちろん金銭的にも)重く重くなってしまう。

最近の傾向は、MDFを芯に微細なエンボスが入った精緻な木目プリントを貼って、あたかも本物の木に見せようとする傾向があるが、私はむしろ「これはプリント木目の素材です」と見るからに分かるような、疑似木としてのアイデンティティを持った素材をうまく使ったほうがいいと思う。その上で、無垢の木を組み合わせ、互いを引き立たせるのである。

偽物だからといって、形や空間に妥協は絶対したくない。家具職人にして工芸家の巨匠、黒田辰秋が「最も美しい線は、削り進んでゆく間に一度しか訪れない。削り足りなくてもだめ、削り過ぎてもだめ」と言ったように、物を置くということは彫刻をしていることと同じで、新しい空間を切り裂くことである。

自分で納得のいく美しい空間に身を置くことは喜びだし、そこで物を使うことが気持ちよく、実際に使いやすいのである。だから海が見えるせいもあるけれど、私はキッチンに長く居てもぜんぜん苦にならないのだ(笑)。


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