近所に住む篤林家のKさんの山を見に行き、帰りに線香林の雪折れなどを見学して、にゃん太郎君とS子さんを本庄駅まで送る。その足で高崎へ出て、駅近くの旧井上邸「高崎哲学堂」を見にいく。コンクリート打ちっぱなしの「高崎市立美術館」の裏手に大きなケヤキの木立と高い塀に擁された一角があり、土日のみ無料で見学できるようになっている。
アントニン・レーモンド自邸をコピーしたこの家はまるで小さな町工場の建物のようでなかなか面白い。足場丸太のスギ材、壁はスギ板、内装はなんとベニア板、屋根は鉄板。丸太をボルトで結合するというトラス構造で、骨太の横架材を用いず軽快な空間を実現している。
床を低くして開口部が庭と地続きで外との一体感があり、軒を長く出すことで内部への水跳ねを防いでいる。西洋風だけど日本の自然を捉えており、ローコストの木造建築ながら洗練とモダンが感じられる。でも雰囲気は侘び寂びの世界だ。経過年数は築50年。最近この建築の評価が高くなり、この日も建築関係者が次々に見学にやってくる(しかし奥には「お手伝いさんの部屋」というのがあってちょっと鼻白む)。
伝統工法の大工さんが見たら吹き出してしまうほどのお粗末な木工造といえるかもしれない。それでも見るべきところ、学ぶべきところはある。軸組みの制約から開放された軽快さ、ボイラー室から天井空間にダクトを使って室内暖房を成してしま合理主義と大胆さ、そのくせベニア板をそのまま内装に使うミニマルな感じ。
だけどそれは井上房一郎氏の生活の特殊性あって成り立つ住宅のような気がする。風呂や食事の空間が苦しい感じだし、レーモンド邸では専門のおかかえコックがいて中央のパティオで食事をとることが多かったという。来訪者の書き込みノートを読むと、この家を手放しで絶賛している人が多いけど、その影で山村のたくさんの古民家が静かに朽ちようとしているのを知ってほしいな。