近所に住む林家のKさんがカキを採りにきた。僕らが取りきれない高い位置にあるものを、木登りして、竹の先端を割ったもので次々と採っていく。やっぱり山暮らしの年期がちがう。カキの木は折れやすい。枯れた枝には絶対に乗らないこと。奥さんからお礼にダイコンとホウレンソウをもらった。ダイコンは僕らも作っているのだが、上の畑は全体に成長が悪い。Kさんの畑のものはかなり大きい。しかしホウレンソウの味は僕らのほうが勝っていた。
自慢じゃないが僕らの畑のホウレンソウは驚くほど旨い。成長は遅いが虫食いはほとんどない。カシの葉と小枝を中心にした堆肥、そして木灰だけ。化成肥料、動物糞の有機肥料はまったく与えていない。もちろん虫避けの農薬もゼロ。このホウレンソウは生で食べ比べてみるとよくわかる。甘く、ナッツのようなコクがあり、苦みはまったくない。最後にかすかにリンゴのような酸味を感じる。感動的な旨さであり、爽やかな後口だ。
もちろんおひたしにしても旨いのである。茹で水が山の水であることもこれを倍加するし、上にかける鰹節が本枯れ節の削りたてときているのだから。おひたしは、常に湯温を沸点に保つように、少量づつ茹で、すぐに冷水で冷まし、サラダスピナーに入れて少したまったところで水をきると便利。囲炉裏端はこんな作業も案外やりやすいのである。