前日の石垣の崩れをイタルさんと直しにいく。といっても、チェーンソーで枯れ木を裁断し、土を除けて、石をどかしておくだけだ。やや高さがあり、これを本格的に積みなおしたらかなりの労働になる。所有者が不在なのだからどうしようもない。
しばらくぶりでチェーンソーを動かしたので、ついでに約束していた神流町のクリの木を取りに行くことにする。前の日記に書いたが、ニホンミツバチの巣にする樹洞をつくるのに最適なクリの倒木を貰えることになっていたのだ。
ところがそう決めて準備しているうちにY先生に用を頼まれてしまう。畑への軽トラでの荷物移動と、水タンクの泥掃除である。僕らの水源は湧水を直接引き入れているが、Y先生のところは地表を流れる沢から引いているのでタンクに有機物がたまる。
水面との接触面近くにはコケのようなものがべっとりとついている。泥抜きバルブを開けて、それをデッキブラシで掃除する。上流のタンクの砂も出した。これは小さなドラム缶様のものだが、そのたまった砂はわずかにヘドロのような臭いがする。
こんな清浄な渓流の水でさえ、人工的に水溜めをつくると底の泥はヘドロ化するのである。ダム湖の沈砂を排出する実験で、その河口付近がヘドロの煙幕で魚が死滅した事実を思い出した。
自然の河川にも淵のような深場はあるのだから、ヘドロ化してもおかしくないのだが、渓流や清流域ではそんな臭い場所に出会ったためしがない。なぜか? 自然の淵では有機物が溜まる前に軽いものは流れてしまうし、浅い場所で様々な生物が分解してしまう。よしんばヘドロが溜まったところで、大雨や台風のときに流れ去ってしまうのだろう。
もっとも、Y先生宅のこの水源は風呂専用だそうで、飲料には浅井戸のものを使っているそうだ。
さて、用事が終わってクリの木である。まず、そのミツバチ名人のKさん宅に行くが不在。Kさんのつくった樹洞の巣箱の長さをメジャーで測ると62~3cmだった。とにかく現場に行ってその長さに玉切り、所有者にお礼の酒一升を渡し、帰りにまたKさん宅に寄る、という段取りで山中へ。
ところが、その場所がどうもわからない。林道をいったり来たり1時間ばかり探したがダメ。そこで再びKさん宅へ戻ると、いがぐり頭に赤いシャツを来たKさんが、下の方からふいに現れた。事情を話すとすぐに案内してくれることになり、現場は見つかった。
Kさんの指導で直径40~60cmくらいの倒木クリを、長さ63cm×8本に玉切る。根こそぎ倒れた風倒木で、すでに10年くらい経っているのではないだろうか。しかし、皮は腐っていても木質部の本体はまったくといっていいほど腐りがない。
それにしても重量はなかなかのもので、僕らのアトリエが車横付けができないことを知ったKさんは「ここで中をくり抜くまで加工してから持って行くほうがいい」とアドバイスをくれた。チェーンソーで空洞を開けてから、特注のノミで穴を広げていくのだが、その道具もKさんが貸してくれるという。
夕闇が迫り、Kさんは犬の散歩が待っているというので別れることにし、僕らはこの山林の持ち主宅にお邪魔して、今日の経緯を話しお礼を言った。「あんなクリの倒木は、いまどき所有者はほしがらないから、オレが話をつけてやるから」と、前回はKさんがそのお宅まで僕らを連れていき、紹介の労までとってくれたのだ。「だけど、無断で取ったらやっぱりいけねえや。まあ酒の一升でもお礼すりゃいいよ。それが田舎のしきたりだから」
帰り際、軽トラにたくさんの犬を載せて河原へ移送する赤シャツを見た。Kさんは狩猟もやっているのだった。