びわ湖造林公社の負債明るみに


昨日の『京都新聞』に造林公社の赤字問題が出ていた。

意外に知られていないが、日本中にある林業系の公社はどこも膨大な負債を抱えている。戦後の拡大造林時に自治体や公庫からお金を借りて木を植え、育てたのだ。当時は木の値段が高かった。当時のレートからすれば、その借入金は伐採で十分返せるはずだった。

さて、新聞記事から内容を要約。

滋賀県の県造林公社とびわ湖造林公社が、スギ・ヒノキの造林に借りたお金(農林漁業金融公庫などから)の累積債務は約1000億円。その返済期限が迫り、裁判所に特定調停を申し立て、債権の放棄や金利減免などを求める、という。試算では、立木を伐ったとしても得る金は122億円にしかならない

らしい。

造林公社が「債権の放棄や金利減免」を裁判所に申し立てをした例は、これまで日本の歴史に例がない。この意義は、造林公社の借金問題が明るみに出る、という意味で大きいのかもしれない。滋賀県だけの問題ではないからだ。各地区で数百億の負債はざらにある。

滋賀県の場合は、びわ湖が下流の大阪などの水源であり、山林は水源涵養林としても大切なものだ。それで借入しても造林を、という気運があったのだろう。

正確な累積債務1057億円の内訳は、農林漁業金融公庫467億円、県が424億円、大阪府や大阪市など下流8団体が166億円だという。このうち、公庫には今年4月から延滞を続けており、10月には一括償還請求も辞さない姿勢を公庫が見せてきた(ようするに担保の現物取りたて・競売へ?)。そのリアクションでもあるのだろう。

さて、借りられた側の政府系金融機関「農林漁業金融公庫」だが、この組織は統廃合されることがすでに決まっている。今年の5月「株式会社日本政策金融公庫法」が成立。「国民金融公庫」「農林漁業金融公庫」「中小企業金融公庫」「国際協力銀行(JBIC)」の4つが統廃合され、来年10月から「日本政策金融公庫」に生まれ変わるのだ。当然のことながら、各機関の債務は新機関に継承される。

ところが、その日本政策金融公庫の法案の中に「公庫はその業務の一部を金融機関等に委託することができるものとすること」とある(行政改革推進事務局ホームページ)http://www.gyoukaku.go.jp/news/h19/news0313_1.html

これはどういうことか? たとえば外資系の金融機関が介入してきて、取り立てをする、もしくは山林が競売にかけられて外国人の資本家に買われてしまう、というような危険はないのであろうか? いま、都市の不動産ではそのようなことが起きているのだ。

うるわしい日本の山林の中に突如、外資系のリゾートホテルなんぞが建てられ、中にカジノやゲームセンターやDランドのような下らぬ施設が入り込むような、そんな取り返しのつかないバカなことだけは避けたいものだ。今、どんな急峻な山にさえ、現代の土木技術をもってすれば、そんな施設をつくるのは不可能ではないのだ。

数字のマジックを清算するために巨木を伐ってしまう。山林の真の価値を知らない金持ちに土地を売ってしまう。たとえば東京の日の出町のように、すでに水源に焼却灰の最終処分場をつくってしまった所もある。

昔も借金のかたに山林を取られた、という話はよくあった。しかし山を買った旦那衆は、山の価値をよく知っていたのだ。山はかけがえのないもの、ということは、昔の日本人なら骨身に沁みて感じていたことであった。

いま、この感覚が多くのひとたちから薄れてしまっていることが恐い。しかし、山の価値を失うようなことをすれは、自分たちの首をゆっくりと締めているようなものだ。

行革や統廃合の恐いところは、以前の担当者がごろっと入れ替わってしまうことだ。植林された立ち木や山の知識がある人が、その担当者になっていることは考えられないのだ。

法案をつくる人も、この問題にかかわる弁護士も、公庫の当事者も、負債を抱えている側も、すべての人がもう一度、山林の価値を、木を循環させていた日本の文化を、環境の維持のことを、勉強をし直す必要があるのだろう。


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