旅がいまのように快適でなかった時代に宿にたどりついた旅人に生き返らせるような食べ物はスープだった・・・というような書き出しで、丸元淑生の料理本『スープ・ブック』は始まる。英語にはハーティ・スープという言葉がある。
「ハーティ(hearty)という語はスープについたときは、実質的な、たっぷりの、栄養あるという意味になりますが、スープを形容するこれ以上の適語はないように思われます」「現代人はいま豊かな食材に恵まれて快適な生活をしていますが、大多数の人の食事を栄養的に見ますと、実は過酷な旅をしている旅人の状態ということができます」(同書)
なるほど。日本人にとってスープといえばやっぱり味噌汁。本物の出汁と本物の味噌、それに様々な野菜具を入れた味噌汁は、日本のハーティ・スープだろう。でもパン食に味噌汁は、やっぱり合わない。
アトリエでは豆のスープをよく作る。ジャガイモは自家製の常備が、ニンジンは畑にあるので、前夜水につけておいた豆にこれらを加えて、好みでタマネギなどを入れ、あとはアトリエにあるハーブを入れてことこと煮込む。月桂樹の葉、パセリの茎、フェンネルの実、ローズマリー。今回はひよこ豆だったのでショウガも入れた(ナリは小さいけど自家製)。
丸元氏は同書で、スープの土台となる魚や野菜のストックの重要性を説き、そのストックがない場合は水でもいいが、その場合
「材料の組み合わせだけで味をまとめることになりますので、完成されたレシピから少しでも量を変えると味がまとまらなくなってしまいます」
と書いている。
が、そんなことはない。アトリエのスープは毎回テキトー(しかもストックなしで水だけ)だが非常に美味しい。その透き通った甘さ、滋味、まさにハーティ・スープであると思う。いい水と、薪の火、採りたての無農薬野菜(ハーブも含めて)、のチカラは「レシピの黄金律」なんぞ軽く超えてしまうのだ。
月桂樹の木(これはもともと敷地に生えていた)も、パセリも、ローズマリーも、ショウガも、肥料も農薬も要らず簡単に栽培できる。安心してなんでもスープの材料や香りつけに利用できる。
30分車で町に降りるとスーパーがあり、そこでは外国産トウモロコシを原料に化学調味料が混入されたインスタントスープと、ペットボトルに入ったミネラルウォーターが売られているのが、不思議に思えてくる。
この頃、スーパーに行くと、買いたいものがほとんど見つからなくて困る。