昨年の夏の取材で行くことのできなかった愛南町外泊の「石垣の里」へ。おそらくここ日本最大の石垣集落といっていいであろう。すでに取り壊された家屋の跡があり、山の斜面の石垣畑に至ってはほとんど耕作が放棄されて森林化してるが、集落の石垣は現存しており、現在は要所には遊歩道が整備され「外泊・石垣の里ミュージアム」と銘打たれたパネルも置かれている。なかに民宿も数件。バスによる見学ツアーもあるそうだ。
昔はこの畑で麦とサツマイモの連作がなされ、それと近海魚と海草で自給自足の暮らしを営んでいた、というパターンが瀬戸内の島や愛媛西岸にかけて多いのである。それは人口増加によって次男三男が移り住む過程で、山を切り開いて畑と居住地をつくり、そのさい出土した石を積み上げ、強風や塩害から家屋を守る砦としたのだ。
乙羽信子と殿山泰司が主演する『裸の島』というモノクロ無声映画があるが、その光景さながらの天秤棒と桶による「水運び」が、この段々畑で繰り広げられていたのであろう。愛媛ではその段畑がミカンにとって変わられ、戦後は黄色いダイヤなどと呼ばれ、農薬が大量に使われ、そして海では工場と家庭排水、そして栽培漁業によって汚染が進んだ。観光地化された石垣を眺めながら、そんな様々なことを思いめぐらした。
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