昔ながらの「おやき」を本物の囲炉裏で作って食べさせてくれる「おやき村」を取材してきた。いま、公な場所で、炎を立てる本物の囲炉裏を見る機会は皆無に近い。みな、煙と灰汚れを心配して炭だけを使う傾向にあるのだ。しかし、ここ長野県小川村の「小川の庄 おやき村」は違った。
車で近づくにつれ、薪火の匂いと小麦の焦げる香ばしい匂いがそこはかとなく流れてくる。おやきを焼く建物に入ると、ほの暗い中に、炎がメラメラと立つ大きな囲炉裏が、中央にでんとある。感動的な光景だった。
場所は長野駅から車で40分ほどの、長野市と大町市に挟まれた山の中(といえばなんとなく解るかな)。この辺りは、私がいま集落支援員で行っている神流町の持倉集落の雰囲気に良く似ている。とにかく山深い、陽当たりの良い、山上の集落である。駐車場のスペースも苦労して作っている。
もう20年以上の歴史をもつという「おやき村」。ここで地元のジジババたちがおやきを焼いたり手打ちソバを打ったりしている。自家製味噌や山菜の漬け物など土産物も豊富に販売。
いくつかの棟に分かれているが、これが縄文おやきを焼く竪穴式住居風の建物。
その内部。
長野でもこの湾曲した鉄網は「ワタシ」と呼ぶ。おやきはまず囲炉裏中央にぶら下げられた鉄製のほうろくで両面を焼かれた後、ワタシの上に載せ、炭火で焼く。初期は灰に埋めて焼いていたのだそうだが、保健所からクレームがきてこのような炭焼き仕上げに変えたそうだ。最初にほうろくで表面を焼いておくと灰がくっつかない。2~30分くらいかけてじっくり焼く。
炭は囲炉裏の薪火から生成された熾き炭を、火かき棒とじょれん(ミニスコップのようなもの)でワタシの下に移動して用いる。専用の炭を追加して使うわけではないのだ。これが、囲炉裏の大きな特徴であり、すばらしい機能なのである。
さっそくいただくことにする。野沢菜のおやき、一個170円。みそ汁1杯もつく。お茶はソバ茶。こちらはいずれもセルフサービスで。
野沢菜は古漬けを塩抜きして刻み、味噌を練り込んだもの。味噌には油と砂糖を少々入れてあるらしい。旨い・・・。そしてみそ汁がまた、感動的な美味さだった。やや酸味を感じる。凄く力のある味噌だ。もちろん、こちらの自家製の味噌(大豆と米麹)だそうだ。
作り方はでっかい餃子か肉まんをつくっているような感じだ。これはナスの具。
実は長野に行く途中で、Mバーガーを食べてきたんだけど、縄文おやきもドライブスルーやってくれないかな(笑)。驚くのは、こんなへんぴな山の中にも関わらず、次から次へと人がやって来ることだ。お土産として何個も買っていく人がいる。そのパッケージデザインがまた、Mドーナッツを彷彿させて面白かった。
すごいぜ「おやき村」。時代は囲炉裏なのだ!
*
小川村から見る北アルプス連峰。鹿島槍、五龍、そしてすでに冠雪した白馬まで、ばっちり見えて、おやきの感動にこの風景が花を添えてくれた。
コメント