いぐさ味噌/集落支援員in持倉(8)


山村振興のアイデア


神流川の谷間は寒い。ダムの流れ込みは氷結していた。

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集落支援員の仕事は、最終的にはその地の過疎振興のための企画を起こすところまでできれば理想的だ。9月から仕事を続けてきて、ようやく私にひとつのビジョンが浮かんだ。yuiさんと囲炉裏にあたりながら、そのアイデアを煮詰めてみた。

今日は県から企画部長が持倉を訪れるので、そのスケッチを形にしてみたいと思い、道の駅「万葉の里」で早い昼食をとり、そのテーブルでノートに絵を描く。その後、役場を訪れコピーを取ってもらい、持倉へ。Sさん宅へ。

いぐさ味噌とサンマのおやき


ちょうど次女のK子さんが玉村から来ていらして、一緒に話を聞くことができた。Sさんのお宅の敷地はかなり広い。家も横長に大きく、さらにもう一棟建っている(親戚の持ち物で今は無人)。畑も広く、奥様が熱心に野菜をつくられていたが昨年9月に、奥様は亡くなられた。

K子さんによると、お母さんはとても料理が上手な人だったそうで、子供の頃はここではお菓子などが買えないので手作りのかりんとうなども作ってくれたそうだ。羊羹も作ったし、青じそを入れたホットケーキ様なものも美味しかった。

囲炉裏が健在の頃、おやきもよく作ってくれた。K子さんは中にサンマの焼いた身を入れたおやきが大好物だったそうだ。味噌、醤油も自家製。隣の家との間に大きなカマドを置いて大豆を茹で、石臼で挽いて豆腐も自家製だったという。

田楽もよく作った。茹でた小ジャガの皮を剥き、竹串に刺して「いぐさ味噌」をつけて焼く。「いぐさとは?」と訊くと、K子さんが一升瓶に保存してあるそれを見せてくれた。それはエゴマだった。エゴマのタネを炒り、すり鉢で擂って味噌を合わせたものが「いぐさ味噌」だ。それなら美味しいのが想像つく。

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分校への通いと寄宿舎暮らし


Sさんはかつての生業は山林作業で、伐採から炭焼きまで何でもやった。養蚕やナメコ栽培もやっていた。家の周囲に薪が大量に積んである。囲炉裏の上に時計型の薪ストーブを置き、コタツは今でも炭を使っている。

私たちも薪火が好きで、「旧アトリエでも桐生でも囲炉裏を焚いているんですよ。エゴマも自分たちで栽培して日々使っています」というとさすがに驚かれていた。

K子さんは私と2年しか違わないのだが、さすがに山村での原体験の濃さは半端ではない。小学3~4年まで薪風呂で、自分で燃やす手伝いをしたことがあるという。小学校は4年生までは椹森の下にある船子分校まで歩きの往復。そして5年から中学までは万場の本校なので寄宿舎生活で、土日だけ持倉に帰ってくる。中学1~2年までは自炊だったそうだ(年長者が中心になって作る)。それ以降、賄いの人がきて作ってくれるようになったが、やはりお母さんの手料理のほうが潤沢で美味しく、土日に家に帰れるのが待ち遠しかったという。

「考えてみれば信じられないような生活でしたね。今の子供たちだったらとてもできないし、親がさせないでしょうね。でも、貴重な体験をさせてもらったと今では思います」

なにしろ、父母はもっと大変な暮らしを通過してきたのだから、女の子でも送り出すことができたのだろう。

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ここに戻りたい思いと阻むもの


K子さんもこの故郷に愛着を持たれている様子だが、次男のNさんも持倉が大好きのようだ。Nさんは料理が好きで、居酒屋の店長を長く勤めていたという。しかし不景気でリストラになり、現在は食関係ではない会社に勤めている。

ここに戻りたい思いがあり、Sさんもこの家をNさんに世話してもらいたいと考えている。野菜などいつも母親から貰っていたが、同じ材料で同じに作っても、町では同じ味にならない。「同じ酒でも持倉に持ってきてここで飲むとなぜか旨い」と言っているそうだ。

私は、「Nさんがここ持倉で自然食のレストランをやってみては?」と持ちかけてみた。今の時代、本当に美味しいものなら、お客はどんな遠い所からでもやってくる。囲炉裏を再生し、お母さんの味をここで再現してはどうか?
幸い、お客さんを受け入れる大きな家は健在だし、砂防工事のおかげで奧に広場(駐車場)がある。しかし集客の問題はともかく、現実的なネックは子供の教育機関が遠すぎるということだろう。

「御そうさま」の行き先


県の企画部長ほか4名の皆が到着し、区長さん宅にご案内した。お茶菓子に手作りの「蒸しまんじゅう」をごちそうになる。中の餡は持倉産の小豆だそうだ。区長さんはかつての国有林の造材仕事の話をされた。私は「御そうさま」の行き先である黒滝不動を訪れたことをお話した。

最後に2地区再生プランの叩き台であるスケッチのコピーを県の方々と役場のKさんにお渡しし、桐生へ帰宅。

 


コメント

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