水戸のかにや


郷里の友人Wの母上が亡くなったので通夜に参列に。しばらく実家もご無沙汰だったし、ちょうどジャガイモを掘り上げたので、実家の母にお土産に持っていくのも良かろうと、水戸へ。

時間まで、駅前の銀杏坂にある同級生の友人O経営の喫茶店に行く。エスプレッソをごちそうになる。

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Oはこの店の経営者になってから、1年365日、1日たりとも休みを取らない。1日12時間労働で、いまバイトの女の子を2人使っているようだ。経営は厳しいという。道を挟んでスタバができてしまったのだ。それでも、店は常連さんたちが集い、Oに話しかけていたりして、いい感じであった。

「いまの景気で雇われ人はいつ首を切られるかわからないし、苦しくても一国一城の主(あるじ)になって良かったんじゃないの?」

と、私はエスプレッソを啜る。

「いやあ、大変だよぉ」

とOは笑った。

私の母にもOの近況を伝えてみたのだが、

「365日休み無し、そんなの商売の出だしでは当たり前。商(あきな)いっていうのは『飽きない』なんだから。お客様に飽きられたらおしまいさ」

と厳しい。まあ、わが実家も商売の叩き上げですからねぇ。母も全盛期は毎日4時間睡眠程度で労働仕事と育児・家事をこなしていたものだ。長男の私は、父のと母の仕事ぶりを見ながら育った。

しかし、この庶民感覚からすると、やっぱり今の地方公務員や議員の、仕事の対価としての報酬の高さは、異常と言わざるを得ない。これだけ感覚が違うと、庶民の心を汲んだ対等の話すらできまい。では、何のためのサービス業務なのであろうか?

水戸駅前から目抜き通りに続く「銀杏坂」は、歩道の銀杏並木から名付けられたもの。その上には城下町の名残り三の丸がある。ケヤキ並木が立派になって木陰が涼しげだ。三の丸小学校のプラタナスが実をつけ、独特の匂いが流れている。

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通夜を終えて、町に飲みに出た。目指すは「かにや」。ここは「水戸昆虫研究会」というサークル(私は幽霊会員のようなものだが一応席を置いている)の忘年会にいつも使われる店だが、個人で飲みに来たのは今日が2回目だ(前回の記事はこちら)。

コの字のカウンターの店で、白髪のガンコそうな親父とおばばと、若い衆2人の、計4人体制で仕切っている。昔、サラリーマン時代によく通った新宿のおでん屋「五十鈴」に雰囲気が似ている。

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鰹の刺身。

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真ツブ貝の刺身。

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貝の内蔵も。

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大洗産、天然岩牡蠣。

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芳醇な磯の香り、そしてすばらしくミルキー。感動のあまり目頭が熱くなる・・・。

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値段表。「時価」の空欄で脅かさず、大衆居酒屋よりはやや高めだが、その味は掛け値無し。

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本当はカニを頼むつもりだったのだが、「天然岩がき」の文字をみて路線を変えたのだ。

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〆はかに汁。毛蟹の足とネギが入っている。

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前回来たときもそうだったが、対岸のカウンターに、役人or大企業の人たちが(これはもう顔つき、立ち居振る舞い、聞こえてくる会話の内容からすぐに解る)高額なつまみを大盤振る舞いしている姿が見られる。また隣の若いカップルも高額なつまみをパクパク食べている。明日は接待ゴルフなんだそうだ。そんな会話が聞こえてきた。

(いま、あんたらが食っている牡蠣や蟹は、森の恵みの産物で、ゴルフ場からの農薬が河川や海を汚染して海産物にまで影響を与えていることを知っているか?)

「おいしいねぇ」と大きな声をたてながら、焼きカニをパクパク、私よりずっと若い女が食べている。

水戸で生まれて51歳になった私は、この店のカウンターに今年初めて座り、大洗産の天然岩牡蠣を初めて食べたのだった。いままで何をしてきたのだろうか?(笑)。


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