電子本アップにつきtwitterで回想録を書いています。twitterを見れない人もいらっしゃるでしょうから、ブログにもまとめておきます。(第1回)
*
電子本『北アルプスのダルマ』の版下が完成したのは1995年頃。出版の足がかりをつけようと『Outdoor』編集部にギター持ち込んで連載企画を売り込みに行き、出来上がったのがこれ(単発でしたが)。当時はマクロビにはまっていたので痩せてるぅ。
とにかくこの本を出すために様々なアプローチをした。ひょんなことから人形劇団プークの『エルマーと16 ぴきのりゅう』劇場パンフレットを依頼される。脚色の川尻泰司さんに「あなたは何者ですか?」と睨まれ、死にものぐるいで描き上げたのがこれ。
しまいに、タマリンの森づくり絵本をまず出版して足がかりを、という作戦に出た。ヤマケイのMさんに絵本出版社Fを紹介され、すかさず『北アルプスのダルマ』のコピーも持って行ったのだがw、ここの名物編集者(たぶん)がじーっと作品を見てつぶやいた。「これ、出したいね。でもウチじゃ無理だ」
*
Fは絵本では有名な出版社だった。私のスタイルは「絵本としては弱い」と言われた。たしかにそうだった。それから・・・「僕らは『あとがき』のない作品を創ろうと思っているわけよ」と言われた。なるほど、そうかもしれない。とても印象に残る言葉だった。
*
Fの編集者はすぐに別の出版社を紹介してくれた。それが『増刊現代農業 』編集主幹Kさんだった。Kさんとは波長が合い、けっこう熱く語り合ったが絵本出版の話には進展せずじまいだった。ところが半年以上経った頃、旅先の仙台でKさんからの電話を受信した。九州まで取材してルポを書けという。
*
『増刊現代農業 』にいきなり6ページ。イラストもレイアウトもすべて自由。タイトな締め切りだったので取材は飛行機で往復。意外なところで私の書き文字の場が開花した。その後もKさんは次々と面白い仕事を任せてくれた。その一つ「三州足助屋敷の冒険」
当時私が理想としていたものは、ケルムスコットの『チョーサー』や山東京伝の黄表紙や、ブレイクのIlluminated Books・・・のような美しさやエネルギーやエレガントさだった。それと山の旅行記が合体するわけだから普通の出版の枠に収まらないのは当たり前といえば当たり前なのだ。
*
『北アルプスのダルマ』を仕上げているうちに、デザインや版下の知識の欠落を感じて、どこか印刷屋に潜り込んでバイトで覚えてしまおうと思ったのは1991年32歳のときだった。なにしろ工学部の土木科出身なもんで絵もデザインもぜんぶ独学だから大変なのだ。
*
日刊アルバイトニュース(懐かしいですねぇ)でたまたま見つけた図版屋さんに作品持参で面接に行った。スーパーのチラシなんかを作っている町の工場みたいな所を想像して行ったら、事務所の壁に篠原有司男のリトグラフがかけてある。本棚には学術書や美術全集がずらり。アレレ?
*
ポートフォリオに『南アルプステントかついでひとり旅』を入れていったら社長はジーっと見ている。顔を上げ「面白いね、明日から来てください」と言われた。教科書や学術書の図版を制作する会社だった。社長のお兄さんは動物画家の木村しゅうじさん、そして美術評論家の故・石子順造だった。アワワ。
*
その会社に9ヶ月ほどお世話になった。お茶汲みから原稿持ちに始まって、やがて下書きやスミ入れをやらせてもらえるようになった。社長と背中合わせの席で毎日が緊張の連続だった。私はここで綿が水を吸うようにあらゆる知識を吸収していった。気難しい社長が私に、ワザを盗めるように配慮してくれた。
※「スミ入れ」・・・ペンで本書きすること。直接版下(印刷原稿)になる。
*
途中で休暇をもらってイギリスに1週間旅をした。ナショナルギャラリ-、大英博物館、自然史博物館、ウォ-レスコレクションなどを見た。お目当てはテ-トギャラリ-のブレイクだったのだが、なんと海外へ巡回展をしていて部屋は空だった。それでも図録や博物学の点描図版、美しい地質図などを入手。
*
旅から戻ると「君もそろそろ歳なんだからウチに残ってはどうか」と社長に言われた。「どうしても世に送り出したい作品がありまして」と私は言った。フリーに復帰後も仕事を与えてくれ、その会社にはお世話になった。数年後、病室の社長に6ページの雑誌ルポを見せると「巧くなったな」と喜んでくれた。
*
絵本は昔からあまり好きではなかったし買ったこともなかった(もちろん創る気も)。でも劇場パンフをやることになって猛勉強。そうしたら欧米の古典的絵本にすごくいいのがある。たとえばジュリエット・キープスの『ゆかいなかえる』、センダックの『チキンスープ・ライスいり』。
*
『チキンスープ・ライスいり』はNUT SHELL LIBRARYという面白いミニ絵本がある。他に『ピエールとライオン』などの計4册のミニチュア本がハードカバ-に装丁されて洒落た小箱に入っている。え、僕? 持ってますよもちろん(笑)。
拙著『北アルプスのダルマ』の表紙デザインは、モーリス・センダック※のNutshell Libraryに影響を受けていたという疑惑が発覚w。
以上1/27~31日分。
※Maurice Sendak(1928- 2012)・・・アメリカの絵本作家。『かいじゅうたちのいるところ』(1964)でコールデコット賞を受賞。センダックの作品は神秘的なのに暖かく、かといって峻厳な一面も持ち合わせていて、彼の出自や人生を感じさせる。「かいじゅうたち〜」私は洋書の原本「Where the Wild Things Are」を今も大事に持っているが、文字のバランスも美しい。
センダックの伝記『「かいじゅうたち」の世界へ』によると『白鯨』のメルヴィルや、詩人・画家のウィリアム・ブレイクの影響を受けているそうだ。『かいじゅうたちにいるところ』の怪獣は、たしかにブレイクの虎に似ている。
「文章に書いてあることを、決してそのまま絵にしてはいけません。文章の中に、絵が動く余地を見つけるのです。そして、文章が最高の動きをするところでは、文章に引きついでもらうのです。それは不思議な曲芸のような作業で、リズムを保つのに、多くの技術と経験がいります」←これは私のイラストレーション・ブックの作法にも通じるな・・・。