古い町並みが残っている広島県福山市の鞆の浦(とものうら)に行ってみたいと思っていた。後で知ったのだが、ジブリの宮崎駿が「崖の上のポニョ」の構想を得た所で家を借りて滞在していた時期もあったそうな。
確かに、これだけ多くの古建築が現役で息づいている場所はもう日本にはないかもしれない、そう思わされた。天然の良港で瀬戸内の海流がここでちょうど2分されることもあり、古くから潮待ち港として栄えた。町の中は江戸期からそのままの坂の多い幅の狭い道路が錯綜している。で、幹線道路から隔離された地区なので、そのまま保存された(取り残された)のである。
さて、建築を見た後、港の外れに観光船のようなものが出ようとしていた。すぐ目の前に浮かぶ仙酔島へ渡る連絡船で、往復240円と安いので渡ってみることにした。外周約5キロほどの無人島であるが、島内にはホテルや国民宿舎・キャンプ施設があり、最近はパワースポットで有名で、いわくありそうな風体の人やカップルが来島している。
私が興味を持ったのはこの島の森林である。際立って大きな木はないけれど、一種独特の豊かな表情をしている。この島には野生動物はタヌキくらいしかいないので、食害のない森を観察できる。ウバメガシを中心に、ヤマモモやトベラ、シイ、クロガネモチなどが混在する。
仙酔島の山は昭和18年の山火事で大部分の植物が失われたという。1943年だから今からちょうど70年前ということになる。島内の看板に「山火事の後、アカマツ、アカメガシワが生えてきた。しかしその後、ウバメガシ、トベラ、ツブラジイ、ヤマモモが戻ってきて以前の自然に帰っている」とある(私はこの看板は未見/他の訪島者のHPから)。
ここには宿が昔からあったようなので、薪炭林として使われた時代はあったとしても、その後は自然再生に任せてこの森ができたと考えられる。山火事に遭っても株だけは生きて残り、萌芽する例は多数知られている。とくに、クヌギ、カシワ、ウバメガシは火事後の再生力が強い。
林内に入ってみると、下草はほとんどなく、一面びっしりと落ち葉で覆われ、足で踏むとフカフカと弾力が感じられる。荒廃人工林にも下草はないけれど、土壌の違いは一目瞭然である。70年でここまで回復するのは驚きだが、瀬戸内の他の島のように「山の上まで段々畑が築かれ薪炭林は徹底収奪されて禿げ山状態」というのとベースがちがう無人島であるのは押さえておきたい。
ウバメガシはこんな太いのもある。矢印に置いてあるのが私のiPhoneである。「この島はパワーがあるので木は地面から枝分かれしている」などと書かれたスピリチュアル系のブログを見て苦笑w。
陽当たりのいい乾燥地の尾根にはネズが実を付けていた。
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後日、気になって高松市内の屋島の森林に入ってみた。ここも2次林が放置され下草はないが、
土壌生物の活動が盛んで、微生物が複合発酵をしている。
屋島に川はないが、表層地下水は海に流れているだろう。その養分がプランクトンを集め、豊かな魚場を作る。
瀬戸内海ではサワラの豊漁が続いている。稚魚放流の努力もあるだろうが、このような再生した山の力も見逃せないと思う。