翌日は周囲に点在する砂防堰堤の工事現場を何カ所か案内してもらったのだが・・・
ここに本当に砂防堰堤が必要なのか? という疑問とともに、周囲の自然環境(森林)がどこもかしこも酷い状態なのが象徴的であった。
ことごとくスギ・ヒノキの人工林なのであり、しかも間伐が遅れた線香林ばかりなのである。
これも工事によって林縁の木を伐られたせいで林内が露わになり、その線香状態の酷い状況が暴かれてしまったのである。といっても人工林のことを知らない人はすぐには理解できないだろうけど(詳しくはnoteの記事『人工林の科学』シリーズをお読みください)。
工事の関係者が立っているのでそのスケールが解る。Uさんの所もこれとほぼ同じ規模のものが計画されている。
それでも林内を覗いてみると、林床の土の状態は紀伊半島のように小石だらけの最悪の状況にはなっていない。彼の地ほど雨量がなく、傾斜もゆるいので表土はいくらか残っており、光が入る林縁部は広葉樹が自然発生している場所が多いのが救いである。
本来なら
1)砂防堰堤を造る以前に周囲の人工林を強度間伐して環境を回復させるべき
であり、さらに
2)沢の掃除や水脈整備(水脈溝や点穴など)を加える
ことで土砂崩壊は未然に防ぐことができる。もし崩れてしまった場合でも、コンクリート土木で強引に塞きとめるのではなく、自然崩壊地はすでに安定地形になっているのだからそれを活かして
3)道をつけながら「植栽土木」によって土留めしていく
のが最良の方法なのである。それは小型の重機(バックホウ)一つあればできるのだ。詳しくは来年1/15発行の新著『「大地の再生」実践マニュアル』(共著/農文協)に詳述してあり、同書3章2節には京都府南山城村での実例が載せてある。
それにしても沢筋を分断するコンクリートを大量に使った砂防堰堤と、海岸林(魚付き林)を横断して山から海への水脈を抹殺するアスファルトの車道、この2つがどれほど日本の豊かな自然環境を破壊してしまったか、その影響は計り知れない。
「大地の再生」工事が一般化して各地の自然が復興するであろう数十年後、驚くほど豊かな花々や生き物たちが戻ってきたとき、
「私たち人間はこれまでなんと野蛮なことをしていたんだろう・・・」
と思う日が必ず来る。しかしコンクリートや鉄という素材が悪いわけでは決してない。気・水脈をせき止めずに植物に寄り添うかたちで使っていけばいいのであり、未来にはそのような新しい土木の形態が設計・施工されていくだろう。
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Uさんの古民家の囲炉裏で、炭をおこして鍋を温めた昼食をご馳走になり、夕刻、鎌倉山の反対側に住まうリュウジ君の家に向かった。数年前に購入したという古民家が改装されて一家5人で住んでいる。
リュウジ君の奥さんが写真家の木下伊織氏であり、隣接する家屋が改装されてアトリエ・スタジオになっている。明日は野外に出て彼女に新著用のポートレートを撮ってもらう。