大地の再生@宇和島市吉田町/1,急傾斜崩壊地の抵抗柵の作り方


今年の夏(8/15)に訪れた西日本豪雨被災地のひとつ、愛媛県宇和島市吉田町に行ってきた。前回の講座の主催者でもあるみかん農家のAさんが、同地で2回目の「大地の再生講座」をひらいたのである。前回は現地調査と解説だけで作業はなかったが、今回の2日間は資材も十分用意され、矢野さんの指導のもと作業が行われる。昨日、矢野さんの講義があり、午後から実際にみかん山に入って崩れた斜面に抵抗柵などを作った。

私は今日からの参加。まだ暗いうちに高松を車で出発し、集合場所の会館に開始20分前に着いた。周囲は急傾斜のみかん畑で、その狭い道を軽トラや小型自動車に乗り合わせて行く。今回の作業場所は、みかんの原木もある歴史の古いみかん山だということだった。まずは昨日の作業の跡を見に行く。

木杭と竹とみかんの剪定枝の「抵抗柵」が崩壊跡に作られていた。崩れた場所は自然が作った溝、すなわち水脈ができている。そのまま裸地にしておくと雨のたびに溝が掘れて泥水が流れる。それを防ぐために自然素材で小さな堰堤様の「抵抗柵」を作って雨水を分散・浸透させるのだ。

それもただ等間隔に置くのではなく、全体の地形を見て、水の力がいちばんかかる所に置く。そして全体の流れが等速になるように、一様な流れになるように配置していく。写真は現地の地形に合わせ、矢野さんが描いた抵抗柵の平面的なレイアウトである。

形は一つの抵抗柵に木杭を3〜4本、それに竹を番線で縛ってあるのだが、みぞの深さ広さ、あるいは傾斜の度合いによって、微妙に変えてある。

みかんの剪定枝は多量の表面積を持っており、雨を吸着するだけでなく、水流がぶつかれば「泥漉し」として機能する。剪定枝の下には炭がまかれており、それは保水、微生物の住処、ミネラルの補給、そして有機ガスの吸着・放散など多くの役目をする。炭は傷んだ現場には欠かせない素材なのである。

全体を等速的な、一様な流れにすることが重要なのは、そうすることで浸透機能が最大限に発揮されるからだ。一カ所だけ流れが速いと、水は粘性をもって繋がっているために、強い流れに周囲の弱い流れが引っ張られてしまう。流れが速いだけで浸透機能は落ちるのだが、細い流れの水もまた浸透しにくくなるのだ。

雨が地中に多く浸透すれば、川の急激な増水はなくなり、同時に泥水も出にくくなる。腐葉土やその下の土の層によって濾過されるからだ。また、等速的な、一様な流れにしておけば、崩壊を最小限に抑えられる。

このような急傾斜の山では、かように水の分散と浸透は重要で、それがみかんの生育にも大きな影響を与えるのだが、現代土木は水を集めて流すだけで浸透についてはほとんど考えていない。ましてや水の流れるところは空気も流れる・・・などという概念は全くないのである。

さて、ここみかん山での抵抗柵の作り方をみてみよう。まず横木の竹は太いものは節を割ってから使う。そのほうが縛りやすく柵としての機能的にも優れている。

杭は頭が割れるほど強くは打ちすぎない。飛び出た部分はカットすればよい(竹との交差ぎりぎりではなく5㎝くらいは残す)。竹を杭に番線しばりするときは1本ずつでなく2本以上まとめて縛る。また番線を完全にキツくは締めない。若干の遊びがあったほうが強い。竹の両端はきれいに切り揃えず、ランダムな飛び出しのズレを作っておく。

中に入れる枝葉は・・・

別の場所でまとめて細かく剪定はせず、大きなまま運び入れて組み込み、出張った部分を剪定ばさみで切って、それをまた差し込んで構成していく。要するに、風で折られた枝がこのような障害物に止まったとき、自然に風化していくイメージだ。

枝葉をグランドカバーに使うのに細かく裁断するときは、枝の付け根から切りがちだが、枝を曲げてみてその曲がりの中心で切る。要するに主枝がただの棒にはならず、魚の骨のような状態になっているということだ。そのほうが地面にべたっとせず空間を作ってくれる(確かに自然の風化ではそのような形態になるだろう)。

まかれたチップも「まばら」と「団子のかたまり」が混在しているようではいけない。満遍なく点在する風景と感じられるようにまく。

矢野さんは常に自然の風と水の流れになぞらえて、作業のかたちを捉え、物の構築をする。

炭のまきかたにも「空気まき」と「水まき」がある。手の甲を上にしてまくと上からぽろぽろこぼれ落ちる、これが空気まき。ガバッとすくって手の甲を下にしてザアッとまくのが水まき。水まきは空気まきの3倍量になる。

私はこの4月の屋久島から、12月の仙台まで、「大地の再生」に関して実に80本ものブログ記事を書いており、『現代農業』誌上に5回の短期連載をし、いま被災地のマニュアルを、そして単行本出版を計画中なのだが、新しい現場に行くと、いまだに新たな学びがあるのだった・・・。

(続く)


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