草取りの変遷
春から始めた畑仕事、石垣に囲まれた山村の、石ころだらけの傾斜地という特殊な場所ではあるが、畑の草取りをしながらいろいろ思ったこと。基本的に僕らは無農薬・無肥料・草との共存、という徹底した自然農をイキナリ目指している。が、周囲の方々との関係もあり、あるていど妥協しつつ、様子をうかがいつつやってきた。まあ、初めての畑仕事ということもあり、なにが本当に正しいのか? さっぱり解らないまま、自分たちの汗と感覚から生れ出るものを信じて進むしかないのである。
さて夏になり、草との戦いを経て、この「草取り」なるものが時代によって大きく変遷していることに気づかされた。いま、過疎に悩み人手のない山村では、エンジン機器を使ってさえ草刈りが間に合わない。かつて、若い男手がたくさんあったときは、もちろん大カマで手刈りしていたのであるが、今や除草剤を使わざるを得ない場所も出てきたのである。除草剤 は今どきホームセンターでも売っているけれども、草を枯らすだけの毒があるなら、動物にも害をおよぼすには違いなく、実際にこの集落でもホタルがまったく見れなくなった、というのはこの除草剤の使用も影響しているだろう。
動物の飼料にしていた時代
なぜ草を刈るのか? といえば、草を刈らず放置すれば、道が塞がれたり、水路が詰まってしまったり、石垣が崩れはじめたりする場所があるからで、斜面の多い山村では、この草のコントロールで露出した地面をどうコントロールするか、水みちをいかに維持するかは、とても重要なことなのだ。
ところがこの草刈りは、農耕馬や牛を飼っていた時代は「草刈り=飼料づくり」であって、競い合って為されるような仕事だった。イタルさんによれば「昔は馬も飼っていたし、ヤギやヒツジはどこの家にもいたもんだよ」ということだし、Y先生は子どもの頃の思い出を、こう回想している。
「学校に行く前に、馬の餌の草刈りに行くのが日課だったが、寝坊して遅くいくとすでに他所の人に草が刈られていてね」
たとえばヤギの1頭を飼う場合、年間に約1haの草原が必要と言われている。まして牛馬となれば・・・。日照のいい平坦場はすべて畑に使っていた昔は、スギ植林地の下刈りの草さえ飼料として運んでいたという話もうなずける。
さて、今となっては僕らに動物を飼う体力も時間的余裕もない。優れたエンジン機器もある。そもそも「家畜」という概念そのものに疑問をもつ。農山村に暮らして家畜を飼うことは牧歌的で魅力のあることのように語られるが、実際に動物の側からすればそのことを幸福と感じているのか? それにいまの家畜糞を肥料として農作物の増産に使うことにも疑問があるのは、これまで書いてきた通りである。
草を畑に還す方法
というわけで、刈った草は枯らし腐らせ敷地に還してしまうのがいい。堆肥化には時間がかかるが、最も早い方法は燃やして灰にしてしまう方法である。生の草が燃えるのか? というとこれがやり方次第ではそのまま燃えるのだ。最初に焚き火をしておき、その上に刈った草をのせると、モクモクと白い煙が立つ。中の熾き火が消えない程度に草をのせ続けていけばどんどんかさが減っていく。使い道のないこの膨大な草(刈り終えたもの)も、灰にすればごくごく小さな物質になってしまう。
考えてみれば、この草灰の畑への還元は、原始的な農業形態の「焼き畑」のようなものだ。実際に地面で焼いているわけではないので効用は同じではないかもしれないが、焼き灰を地面に還しているという点で、作物に与える影響は似ているだろう。昔、この地域ではスギを伐った跡を野焼きして、そこに蕎麦をつくっていたという。「その方法だとまちがいなくいい蕎麦ができたもんだよ。でも焼かなくなってから蕎麦の出来にムラが出てきてなぁ」とイタルさんが言っていた。
ちびカマ君で草木灰
しかし焼き畑には周囲の山に引火させない高度なテクニックと経験が必要だし、草をのせた焚き火も慣れないと不安がある。僕らは簡易カマド「ちびカマ君」を使って草を焼いている。これだと火口が地面から離れているのでまず安心なのである。
煙が出ていると刺す虫がやってこない。また、常にかたわらで火が燃えているというのは精神上いいものだ。炎が立つと暑くなるが、煙だけだとそれを感じないのもいい。軒先でクラフトの作業や、読書や、文章書き、ギターの練習などをしながら、ときどき草をくべたり薪を追加したり(熾き火がなくなり火勢が落ちてきたら小枝などをくべる)して、ちびカマ君から常に煙を上げているようにする。蚊取り線香代り、それに刈った草の処理、灰は肥料に。いまこれにはまっているのだった。
手ガマとアサガキ(平鍬)
草刈りはやっぱり手ガマが好き。手ガマで刈ったときの汗と疲労感はとても心地よいものだし、刃の研ぎも自分で簡単にできる。柄の付け替えも可能だ。半月形の平たい鍬「アサガキ」も、草取りの道具として便利である。これで地面をひっかくようにして、草を地面の付け根から切断するのである。
この平鍬は手にもって軽く、畝の中や斜面の雑草をこそげ落とすのにも便利なものだ。Y先生などは、この鍬で上手に土寄せをしている。斜面の上側に立ち、下方の畝の斜面をひっかきながら草を掻いてしまうと同時に、その草まじりの土を作物の生え際に寄せて、軽く土盛りするのである。草と共存の自然農といっても、作物が小さいうちは草の勢いに負けない程度にコントロールする必要があり、斜面で土が流れやすい山村の畑では、この山側への土寄せは必須の作業なのだ。
日中は暑くて畑に出れないのでパソコンを持ち出して、ラタトゥイユを仕込みながら文書書き。麻綿混紡の作務衣を風が抜けていく。中古浴衣を作務衣に再生した相方もご満悦で読書。