ららん藤岡での展覧会の会期中、北アルプス旅行記のドローイングに「花の部分だけ色塗りする」という公開制作をやっている。しかし、懐かしい作品だよなー。僕の30代は「この作品に全てを注ぎ込んだ」時代といってよい。
1987年、僕が28歳の夏に、北アルプスを初めて旅したその旅行記である。全編手書きによる、本文104ページの大作である。
僕は少年の頃から昆虫採集やら釣りやらをやってきた自然大好き少年で、大学時代は東北の山岳渓流でのフライフィッシングにのめり込んだりしたが、前々から山岳にはものすごく興味があって、高校時代は新田次郎の山岳小説を読み耽ったり、芦沢一洋さんのアートディレクションによる『山と溪谷』誌に心酔していたりしたのである。
いわば、山岳に行くべき時をうかがっていたのであった。そして、子どもが生まれて、初めて父親になったとき、いよいよ北アルプスに行こうと思ったのである。そしてその最初の北アルプス旅行を、作品化しようと思ったのである。なぜそうなのか、ということはうまく説明できないのだが、そういうことになってしまったのである。
そして、その作品を世に送り出すべく(つまり商業出版しようと)頑張ったのが、僕の30代の、全てであった。追い取材とレイアウト作業を経て版下をつくり、企画書を送ったり、出版社回りもやった。この作品はいまだに出版できていない。が、この作品が世に出ないおかげで、僕はその後の創作のエネルギーを得られた、ということがあったのかもしれない。
前のHPには、この作品の版下をアップしていたので、見てくれた人もいるだろうけれど、実はこの作品の本質、凄み、真の美しさは、レイアウトペーパーに鉛筆描きしたドローイング(下書き)にある。今回の展覧会にそれを初公開しているのである。