世界遺産登録をきっかっけに「縄文杉」はすっかり人気者になり、ガイドつきのツアーが組まれたりしている。が、日帰りで行くなら車止めから徒歩往復10時間という素人にはハードなコース。
屋久島最高峰の宮之浦岳に登るにはそこからさらに奥に進む。島の外れでキャンプしていた僕らは出遅れて、登山起点に着いたのは9時過ぎ。すでに駐車場は満杯(50台!近くいただろうか)。ようやく隙間をみつけて路駐する。
最初は森林軌道を歩く。屋久杉の運搬に使われたトロッコのレールの上を歩くのだ。
谷のスケールに圧倒される。「なんだこれは!」「小人になったみたい!」石がどでかいのである。そして水のきれいなこと!
かつて集落があった小杉谷。伐採の最盛期には500人以上の人が住んでいた(国有林事業の前進基地だった)。これは学校跡。
軌道沿いには本州のフユイチゴによく似たホウロクイチゴがつやつやと葉を茂らせる。
林内の樹木の根元はコケがびっしり。屋久島上部、山岳地帯の年間総雨量は9000ミリを越える。「ひと月35日雨が降る」といわれる島。昨日は温泉の後にスコールのような土砂降りがあった。今日は朝からどんよりと曇り。雨具は必携だ。
ウィルソン株。中は大きな空洞があり、水が湧いている。切り株からはすでに次世代のスギ(着生した自然の実生)が大樹となっている。
倒木についたコケから発芽した樹木。
伐採木の切り株から様々な種が生えてくる。大木が切られる(台風などで倒れる)と大きな光空間ができ、コケの中で待機していたタネが一斉に発芽し、生存競争を繰り返す。大樹の枝の付け根やこぶなどもこの着生に利用される。これが屋久島に特徴的な更新パターン。
地質は花崗岩で、永田浜の海岸で見た同じ岩が山頂まで続く。その崩壊したマサと粘土が土壌のようだ。基本的に本土よりもずっと痩せ地である。だから天然木の年輪はものすごく緻密。大量の雨、緻密ゆえ腐りにくい、これが老齢スギをここまで保たせる理由なのだ。
ヒメシャラの大樹。本州ではこれだけのものはまず見られない。この辺りで日帰り縄文杉ツアーの人たちがたくさん降りて来てすれ違う。
巨スギが次々と現れる。
ようやく縄文杉に到着。現在は展望デッキからしか見ることができないのが残念。
にわかに晴れて、幹がはっきり見えるようになる。
その上部の枝。様々な植物が着生している。ランやヤドリギのように養分をも吸い取る「寄生」ではなく、あくまでも場所だけを借りるのを「着生」という。中にはいったん着生してから地面まで根を下ろし、親木を根で巻き込んでしまうものもいるのだ。
ともあれ無事ここまで到着できてよかった。そして晴れ間の中で縄文杉と対面できる幸運に感謝。
少し歩くと高塚小屋。コンクリートブロック造の小さな避難小屋(無人)である。意外にも泊まりのトレッカーは少ない。僕らは一番のり。後から大学生の単独行者が来た。僕らと逆方向、宮之浦岳から縦走してきたそうだ。情報を聞くと残雪に難儀したというので明日の行程がちょっと心配になる。
夕食は米を炊き、おにぎりをつくる。長崎鼻で買ったなまり節を削ってみそ汁。屋久島の水で。