マニュアルの難しさ


新著『山で暮らす 愉しみと基本の技術』、おかげさまで好評である。愛媛に住むみかん農家のアベッカムさんの書評を紹介します。

素晴らしい本です。

これから田舎暮らしを始めたいと思う人には、生涯使えるテキストとなることでしょう。

本の随所に、山や川の本来の機能の大切さなどが、書かれています。きっと、一番伝えたいことは、その辺のことなのだろうと思っています。

ですから、町に暮らす人たちにも、ぜひ読んで欲しいです。こういう暮らしがあって、それが美しい自然と文化を育むのだということを、感じてもらえたら、うれしいです。

(中略)

早速読んでいますが、チェーンソーのメンテナンスが、ここまで詳細に書かれている本は、これまでなかったと思います。

チェーンソーが必需品である果樹農家の私にとっては、とっても役に立ちます。もちろん、その他の技術も、タマリンさんの経験と研究の成果が、存分に、わかりやすく書かれていていますね。

多くの方に、紹介したいと思っています。

以上、ありがとうございます。

>チェーンソーのメンテナンスが、ここまで詳細に書かれている本は、これまでなかったと思います。

とのことだが、実はチェーンソーに関しては何冊かないわけではない。しかし入手しにくかったり、やや分かりにくい記述であることは確かだ。

マニュアル作りというのは案外難しいものである。

この世にあまたあるマニュアルがなぜこんなにも解りにくいのか? 制作上の理由がある。

本造りには「作者」「編集者」「写真家」「イラストレーター」「レイアウト/デザイナー」が介入する。それらの合同作品であるといえる。

「作者」「編集者」が本造りに情熱を持って取り組むのは当たり前のことだが、それ以下の「写真家」「イラストレーター」「レイアウト/デザイナー」がその意向を汲んでくれるとは限らないのである。

昨今はギャラ事情が非常に厳しい。アーティストの作品が質で評価されることは稀で、点数単価、ページ単価で使われる。だから「それなりの体裁」が整っていればよしとしがちである。また、昨今の編集者(特にいきなりパソコン編集から入門した若い記者・編集者)はレイアウトに眼力のない人が多い。だから、アーティストやレイアウター、デザイナーの手抜きがわからない。

解りやすいイラストと、文章とのコンビネーション、そしてレイアウトは、マニュアルの命だが、それが絶妙に昇華しているマニュル本は、日本ではなかなか見られない(欧米には優れたマニュアル本が多い)。日本では説明的なイラストを描く人(職人系)の評価は低く、広告系や絵本のイラストレーター(アート系?)が花形職業となっていることもある。

私の場合、小さな図版でもイラストと文字版とレイアウトをすべて自分一人でする上に、「引き出し線」や「書き文字」の位置に、コンマ1ミリまでこだわる。そうしないと本当に解りやすい図版にならないからである。このような職人はいまとても少なくなってしまった。

今回の本は「編集者」以外の「作者」「写真家」「イラストレーター」「レイアウト/デザイナー」が私ひとりでやっている。しかも、作者自身が実体験した内容を噛み砕いて表現している。なにしろDTPレイアウトまで作者がやった書籍の例は(デザイナーの例はともかく)、日本の出版の歴史上初めてのことではないだろうか。

それは新しいOSのインテルMacと、アドビのソフトPhotoshop、Illustrator、InDesignの組み合わせ、そしてデジカメがあって初めて可能になったのである。これまでは、個人の規模で数百の画像データやギガ単位のデータを動かすPCを運営することは、とても無理な相談だった。しかし、昨今のPCはそれを可能にした。デジカメとPC連動の組み合わせは、グラフィックデザインを飛躍的に進化させ、手書きイラストをデジタル化するスキャナーの性能もすばらし精度になった。

だから、こんな本が山の中でデスクトップで制作できる時代になったのだ。ケイ線をロットリングで引いていたり、写植をデザインボンドで貼っていた時代を経験したことがある私としては、隔世の感がある。しかし、大変な仕事であったけれども・・・。

新著のチェーンソーワークやメンテに関しては『伐木造材のチェーンソーワーク』(全林協)の著者である静岡在住の石垣正喜氏から学んだことがかなり反映されている。また鋸谷さんからいただいた「目立ての神様」とまで言われた故・永戸太郎氏の初期の雑誌連載のコピー、そして前に岩手の造林協の泉田さんからいただいたハスクバーナーの古いマニュアル(当時の輸入代理店であったエレクトロラックス・ジャパンが制作したもの)を完璧に読み込んで、そのエッセンスを抽出した。また岐阜県の郡上市明宝に拠点をもつNPO法人Woodsman Workshopの林業Iターン・ミーティングに参加し、講師の末武さんの技術指導を見聞きしたことも非常に役立った。

※夜はその石垣大兄からお祝いの電話をちょうだいした。

このように、チェーンソーひとつにしてもこれだけの資料収集と取材現場を踏み、かつ自分でも実践している、ということなのである。日本で初めてのマニュアルとなる「石垣積み」や「囲炉裏づくり」に関しては言わずもがな。古今の資料収集はもとより、石垣に関しては野面積みの重要な場所を全国ずいぶん取材している。

ま、赤字だな(笑)。

みなさんのクチコミでぜひ黒字にしてください(笑)。それが桐生「忍木菟屋」の改装に反映されますから。

さて、今日は前々から気になっていた2冊の本を買った。

本はたいがい図書館で借りるのだが、そうでない本は、よくよくのことなのである。書評は以下次号。


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