祖母のナタ


水戸の実家からもらってきた父の遺品の一つにこのナタがあった。木を割る必要も燃やす場所も無い実家になぜこんなナタがあったのか不思議だったが、捨てるのなら勿体ないという気持ちで、工具類とともに私が引き取ったのだった。

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今回の餅つきで、思い出したようにこれを取り出し、廃材をさばいた。この土地に残されていた廃材を外燃しで処分するいい機会だと思ったのだ。

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こうして廃材はけっこう片付いた(まだ餅つき一回分くらいはあるが・・・)。

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使ってみて気付いたのだが、このナタは薪割りとしてとても使い勝手がいい。刃に重量があり、持ち手(柄)が長い分、振り下ろすとなかなかの破壊力がある。

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実は群馬で使っていた薪割り用の斧はみな友人にあげてきてしまった。しかし、囲炉裏暖炉は始動しているのだから、なんとかしなければならない。昨年、高知を旅したとき土佐刃物の店を何軒かまわって斧を探してみたが、新品でしっくりくるものがなく、結局買わずじまいだった。

とりあえず丸太はクサビとハンマーで割れるので、それでやっていたのだが、今日はあらためてこのナタを薪割りに使ってみたのである。

すると、直径12~13cm程度の丸太なら割ることができる。刃渡りは15cmだから、それに納まる径なら割ることができるのであった。

割れずに挟まってしまっても、柄が長いので両手で振り下ろして地面に叩き付ければいい。それでもダメならこん棒で背を叩いてやればいいのだ(軟鉄なのでハンマーを使うとひしゃげてしまう)。

そうして何本か割っているうちに、私は電撃のように祖母の顔を思い出した。

そうだ! このナタは父の実家(本家)からもらってきたに違いない! ・・・ということは祖母の愛用品だったのではあるまいか?

そう気付くと、いてもたってもいられず、すぐに外の流しに飛んで行き、研ぎ直してみた。

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砥石もよく効いて、丸保の文字(謎)にも気付いた。

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あらためて観察してみると、背中に叩いた痕があり、やはり薪づくりに使われていたことが伺える。父の実家は代々庄屋をしていたほどの豪農であった。戦後の農地解放で縮小され、かつての茅葺き民家は火事で焼け、私の記憶にあるのは昭和風の木造家屋だったが、それでも私はこの重厚な家と鶏小屋のある田舎が大好きで、学校が休みに入れば欠かさず長期にわたって泊まりに行き、昆虫採集や近くの海に泳ぎにいったのである。

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祖父は私が生まれる前に亡くなり、実質的に本家と田畑を守っているのは祖母と叔父であった。自然大好きな少年であった私を、祖母と叔父夫婦がよく面倒をみてくれた。

高校時代、私は水戸の実家で正月に食べる餅を、祖母のいる実家で毎年搗いたのである(父の命令だった)。祖母と二人でその作業をやったのだが、関東平野の農家には必ず屋敷林がセットになっていて、当時はそこで薪を採り、餅つきのときなど祖母とふたり外で火を焚いたのである。

ということは、祖母がそのとき使っていたナタがこれだったのか?

だとすれば、なんという偶然・因縁なのだろうか、私がこの高松で家を持って初めての餅つきで、このナタを使うことになったのだから・・・。

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ナタでさばいた薪を束ね、部屋へ戻った。

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愛用のヨキとサイズを比べてみた。使いやすいわけだ、重心の位置がほぼ同じなのだ。

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内側に角度がついているところもいい。ナタはこの角度が重要なのだが、最近のナタは真っすぐなものが多い。

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ふと思った。日本に薪割り斧のいいものがないのは、大きな薪を割る必要がなかったからではないか? と。必要がなければ、道具は発達・改良に向かわない。

大きな丸太を割ったものは、十分乾燥させねば燃えにくい。薪ストーブや暖炉ではなく、カマドと囲炉裏だった日本では、太枝程度の薪でいいのであり、かえってそのほうが使いやすかったのである。だからナタでよかったのである。

それはまた、ナタでさばける程度の木の太さで、常に里山を循環させていたということを意味する。

土佐を巡って刃物屋を観察してみると、両手斧は薪割り用ではなくハツりヨキの形が多いのであり、売り手側にはすでにその知識がなく、ハツりヨキを薪割り斧と混同して売っているのを見た。

昔は大木を倒したら現地で丸太の側面をハツって(削って)簡易製材し、軽くしたのである。縦引きノコを使うよりハツったほうがずっと早い。電動帯ノコができる前はハツりヨキが全盛だったのである。

ナタは里山文化の根本となる道具であり、山を壊さず循環していく智慧の象徴である。

祖母のナタがそれに気付かせてくれた。


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