瀬戸内定置網漁取材(その3)


M君はGomyo倶楽部の集まりで一度わが家に来たことがあり、その包丁さばきを確認はしていたが、さすがに魚は慣れていてテキパキと三枚におろす。

大振りのアジの刺身はあぶらはそれほどでもないが複雑な旨味があり、これまで体験したどのアジよりも美味いものだった。

スミイカの刺身はちゃんと切れ目が入って、見た目よく並んでいる。

アジとハゲのアラ出汁でとったワカメとタマネギの味噌汁(私がアク取りを手伝った)。「まるで『びんびや』に居るみたいだ!」と思わず感嘆の声。

ハゲとイカゲソの煮付け。ハゲは子を持っていたのでそれも煮付けてある。これまた絶品。

M君は煮付けもササっとやってしまうが、こんな創作料理も。アジを縦に引いた刺身にゴマ油と卵の黄身を入れて混ぜる。いわばアジのユッケだ。

もちろんハゲの肝もいただいた。さっと湯がいてもらった。いやこれまたもう・・・日本酒飲めないのがしんどかったス!(笑)。

とても21歳の漁師料理とは思えない完成度にN先生共々感嘆しつつ、ご飯までいただいて大感謝であった。結局、獲りたてなので生臭さがほとんどない。だからアラで取った出汁も臭みがまったくない。

M君の実家の谷戸はまさに桃源郷と呼ぶような場所だった。目の前に海、裏はすぐに雑木林で小さな沢が流れている。夏はクーラーなしでも平気、冬は逆に温かいそうだ。

さてタダ飯では申し訳ない。いちど仕分けの様子も見たいとN先生と話していたところだった。というわけで夕刻の仕分けを手伝ってから帰ることにした。今日の収穫は夜のうちに高松の市場に届け、明日の朝せりに掛けられる。市場用の仕様に魚種と重さを分け、トロ箱に詰めるのである。

「その1」で紹介した青いバスタブのような箱に、船の生け簀の中の魚を移動するのだが、

なんと岸壁に船を横付けして、フォークリフトで箱を上げ下げするのである。フォークリフトも中古で安く手に入れたそうだ。

そこに魚を移動していく。

最後はちりとりのような道具で底の魚と水をすくい、タモ網で漉して魚だけ取る。

その魚たちの表情。

まだ硬直状態のままで口が閉じられている。

フォークリフトでそのまま組合の冷蔵庫まで運ぶ。

その後、塗装された型枠用コンパネに止め角材をつけた仕分け板の上に魚を載せて、手で選っていくのである。アジが最も多いので、3サイズに分けておよそ2kg超の量にトロ箱にどんどん入れていく。

中には青アジが混ざっているのでそれは別箱へ集めねばならない(青アジはマアジに比べあぶらが少なく味が劣る、旬は冬)。アジの幼魚も需要があるそうで、それだけを集めて箱詰めする。

仕分けを手伝いながら、瀬戸内の魚をじっくり観察することができた。この他に氷を入れないで活かしている生け簀の魚たちもいるわけであるが、この選別の中でまた多種の魚たちを見た。クロダイはかなりの数がいた。他にカタクチイワシ、イサキ、レンコダイ、メイタガレイ、ゲタ、ウミタナゴ、シロギス、コチ、メバル、ガシラ、カンパチなど、その数は25種類以上に及ぶ。

驚くべき豊潤さではないか。しかし、瀬戸内の魚がどれだけ市場に並び、高松の一般市民に食べられているか? というと心もとないのである。多くのスーパーで消費される量はごくわずかであり、遠く海外から運ばれるチリサーモンなどが、ずらっと売り場を席巻しているのはご存知の通りである。また国内産でも大量の化学薬品を使う養殖ものが相変わらず幅を効かしている。

最後に正確に重さを量って仕分けし、カバーシートをかけて冷蔵庫に入れて終了。私たちの実感からすればかなりの大漁に思えるが、M君によれば「これでも家族でやれればいいが、正規に人を雇ったら赤字になってしまう」というレベルらしい。M君の動きと創意工夫をしてそう言わしめるならば、現役漁師が次々とやめていき、若い跡継ぎ漁師が出てこないのも当然といえる。

だが、それゆえにチャンスは転がっている・・・大きな鉱脈がある・・・とも言えるのだ。換金策にしても、鮮度を守りながら産直をするルート、鮮度の高い魚を加工して長期保存できるシステムなど、まだまだ改良や発見の余地は残されている。

オメガ3、EPAやDHAを豊富に含む新鮮な天然の「青魚」は、現代人に最も必要とされる食材であり、米食とのバランスに最適のものなのだ。求められているのだし、周囲の自然と共に守っていくべきものなのだ。

「また手伝わせてよ」とM君に礼を云い、たっぷりのアジ他の土産魚を車に積んで、夕陽射す漁港を後にした。


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