スギの床と軽い家具


ちょっと前、IKEAのイス「ポエング」の記事にアクセスが急増していた。どうやら暖炉とポエングという二つのキーワードでググると検索上位にこの「囲炉裏暖炉のある家 tortoise+lotus studio」ブログが引っ掛かるらしい。

その記事に、私は次のように追記した。

「ポエング」を使い始めて半年。ますます気に入っている。さらに気づいた良さは簡単に持ち上げて移動できることである。これだけ軽いリクライニングチェアはそうそうあるまいと思われるが、これがスギフローリングの「和的な暮らし/季節による位置替え・しつらえ」の感覚によく合うのだ。一脚のポエングを移動することで、新しい空間を演出し、様々に楽しむことができるのである。

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軽いということは、スギという柔らかく傷つきやすいフローリングで暮らすとき、とても重要なことで、このIKEAのイスはちょっと床を引きずったくらいでは床が傷つかない。

柔らかく温かい、スギのフローリング

そんな傷つくことを心配せにゃならぬスギのフローリングなんてゴメンだ・・・などとお考えになる人がいるかもしれないが、この柔らかさはいちど味わったらもう2度とちがう材の床には戻れないと思われるほど魅力的なものだ。

とにかく洋間なのにスリッパなしで暮らせるのがすごく快適なのだ。そして座布団を敷いて和的にも暮らせてしまう。イスの洋的暮らしとローテーブルの和的暮らしが、ひとつのフロアで無理なく共存できてしまうのだ。

柔らかいので膝などが痛まない。さらに驚くのは、この新居に越してきてからコップや陶器類を落としても一度も割れたことがないのだ。ソフトなのは材の中に空気を多く含んでいるからで、当然のことながらスギ材は断熱効果が高く、暖かいのである。

たとえば、今の季節になっても、夜中にベッドからトイレに行くときに、素足のまま移動してもぜんぜん平気である。これが広葉樹のフローリングや合板だったら、冷たくてスリッパを履かずにいられないと思う。

移動できるということの有意性

ポエングに戻るが、いまこのイスは2階のリビング・ダイニングの中を3カ所を定点に移動を繰り返している。一つはアイランドテーブルの前でテレビを見ながらくつろぐとき。もう一つは囲炉裏暖炉の炎を愉しむためのサイド。そして海を眺めるバルコニーの前。

このとき、自作の大小のスギのテーブルやイスが寄り添って移動することが多い。これも主にスギ材で作られているから軽い。また各所に直径18cm高さ30cmくらいのヒノキの丸太が置いてあるので、そこにyuiさんが作った丸い小座布団を載せると、ポエングでくつろぐときのフットスツール(足乗せ)になる。

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移動することでそこに新しい空間を出現させるというのは、実はきわめて日本的な感覚である。四季の移ろいのある日本では、自然の温度差に合わせて室内も様々な衣替えをしてきたのである。日差しや風のことを考えて。

日本的な「履物を脱ぐ暮らし」だからできること

また日本では様々な儀礼のときに「飾り」をしつらえ、生活の場がイベントスペースへと生まれ変わる。たとえば正月飾り、ひな祭り、お盆、冠婚葬祭・・・などである。インテリアデザイナーの内田繁は著書の中で、それは「履物を脱ぐ暮らし」だから可能なのだ、と書いている。

履物を脱ぐ暮らしでは、空間がすみずみまで自由に使えます。椅子やテーブルがあるとそうはいきません。椅子は、座るという機能が限定されていて、またその存在そのものがほかの場所には座りにくいという制約にもなっています。西洋的な家具はそのように空間を限定します。限定しないのが日本のやり方です。床さえもテーブルになります。そういう可能性や自在性は、履物を脱いでいることに起因しています。すみからすみまで、どこも清潔だということでもあります。(『茶室とインテリア』第一章 座)

この家をつくるとき、もし有名設計家に任せてしまったら、おそらく家具の配置から何まできっちりと決められて、ガチガチの空間になっていたにちがいない。金がないのも幸いして、2階のリビング・ダイニングはただの大きな長方形の箱であり、私はそこに建築残材を使ってDIYの家具を置いていく、という方法をとったのである。

スギ材は洋と和の暮らしを融合してくれる鍵だ

それは図らずも、洋間でありながら和の共存を可能にすることになったのだが、さらにそれを導いてくれたのがスギのフローリングだった。そのためには掃除も大事である。私は掃除機はあまり使わず雑巾がけをする。無垢の木だから引っ掻き傷や食べこぼしなどの汚れを気にする人もいるが、雑巾がけをすることでそれらは馴染んでしまい、床のエージングになる。

装飾を固定化して、空間に特定の正確を付与するのはやめた方がいいでしょう。そうすると「変化の相」も何も生まれません。ウツなる空間は、花を一輪置くだけでダイナミックに変わります。これがインテリアの極意かもしれません。昔の人は、そういうことをよく知っていました。お母さんでもおばあちゃんでも、当然のように、花をさりげなく活けていました。立派な部屋でなくても、ちょっと花を飾るだけで、それが効果を発揮するようなポイントがあります。そういうことを瞬時に了解する感覚を、誰もがもっていたのです。(同)

残念ながら現代住宅では大型テレビを壁に固定してそこにソファーを置く、壁で囲って自然の風を閉ざし、一定の室内条件を保つように冷暖房をする・・・という暮らし方を、設計側も強いているように感じられる。

この四季の豊かな日本の中で、一番の刺激が液晶画面の中・・・というのも寂しいだろう。近ごろではバロンが外に出たがらないのは、この室内空間が刺激的で飽きさせないからではないのか? などと思うようになってきた(笑)。

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